『前世を知って幸せになる本』にツッコミ!(その1)

書 名  前世を知って幸せになる本
著 者  山川紘矢&山川亜希子 (著・監修)
出版社  マキノ出版
価 格  1,048円(税別)
 出版年月  2011年6月

●本書概要

 本書に添付された「前世療法CD」を聞いて自分の前世を知ることにより、幸せになれると言う内容。

 なお、本書の表紙には、以下の通り記載されている。
<本書の表紙より>
 『ザ・シークレット』『前世療法』『聖なる予言』『アルケミスト』等のスピリチュアル翻訳家・山川夫妻がついに明かす!「誰もが永遠に"魂の旅"を続けている」「日常生活の中で輪廻転生に気づく13の方法」「楽しく悟るために知っておきたい11のこと」


●ツッコミ

 本書の表紙には、以下の通りのキャッチフレーズが記載されている。
<表紙>
天職と出会い収入激増!
運命の伴侶と幸せに結婚!
夫婦・親子が和解し笑顔が戻った!
うつ・パニック障害・難病が軽快!
 雑誌広告の開運グッズと同レベルの内容。

 しかも、「うつ・パニック障害・難病が軽快!」と、
「完治!」とは書けないのが悲しいところ。

 しかし、
「軽快」って、なんやねん。

 そんなもの、気持ちの持ち方や思い込み次第でどうとでもなるもの。そして、短時間でも「軽快」に感じれば、「うつ・パニック障害・難病が軽快!」と書けるレベル。

 もう、表紙の時点で怪しさ満点である。


 さて、本書には「前世療法CD」なるものが添付されており、それを使用して瞑想をすれば、自分の前世を知ることができると記載されている。

 私個人の見解を言えば、「転生も前世もあるのではないか」と考えている。しかし、結論から言えば、
このCDを使って見えた前世は、本当の前世ではない

 以下に、何故、そう結論づけるかを記載したい。



 まず、本書に記載されている、自分の前世を知る方法について説明しておきたい。

 簡単に言えば、「前世療法CD」に録音されている言葉に従って
催眠状態になり、前世を思い出すと言うものである。

 そして、より詳細に手順の概略を示すと以下の通りである。
<P.22-29(概略)>
@.静かな環境で、楽な姿勢で座る

〜以下は、CDの指示に従って行われる〜
A.目を閉じて深呼吸をする
B.白い光をイメージし、その光が身体全体を満たすのをイメージする
C.目の前に階段をイメージし、その階段を降りる
D.降りた先は広場になっていて、目の前にドアがある。これは過去生に通じるドアである。
E.ドアを開き中へ入る。
F.霧がだんだん晴れてきて、何かが見える(※これが前世に関連するもの)
G.来た道を戻って、目を開ける

これは、一回するだけでなく、何回も繰り返し行って、やっと前世が見えてくる人がほとんどらしい。
 さて、このようなことを行って見える前世は、本当の前世だろうか。

 手順に従って、順に見て行こう。

 まず、Bでイメージした白い光は、真実だろうか?
 答えは否だろう。CDから発せられる言葉に従って自分が想像したものであり、実際に光が自分の身体を満たしているワケではない。

 次に、Cでイメージした階段は、真実だろうか?
 これも答えは否だろう。誘導に従って想像したものに過ぎない。

 では、Dの広場とドアは? これも同じく単なる想像である。

 そして、最後に、Fで見えたと言う前世は、真実だろうか?

 真実であるワケがないであろう。

 それまで、誘導に従って想像してきただけなのに、ここで突然、真実になるワケがない。

 
ここで見えたと言う前世も、それまでのドアや階段等と同じく、単に誘導に従って自分が想像したものに過ぎないと考えるのが妥当であろう。

 また、この方法により、通常の状態で想像するよりもリアルな映像が見えるのは、催眠状態に置かれることによって脳の夢を見る機能を使用しているからに過ぎない。


 なお、わざわざ催眠状態でなくとも、人の記憶は容易に変容するものである。
「記憶は確かなもの」と勘違いしている人も少なくないのではないかと思うが、実際には、人間の記憶ほど当てにならないものもないのである。

 『超常現象をなぜ信じるのか』という書籍に、そのことを示す心理学の実験等が掲載されているので、以下に何点か引用したい。
『超常現象をなぜ信じるのか』(菊池悟・講談社) P.87-88
存在しないものの記憶
 ロフタスは、こうした
偽りの記憶が簡単に作れることを気づかせるため、「誰かに実際にはなかったものの記憶をもたせる」という課題を授業で出しているそうです。
 この課題に取り組んだある学生のグループは、駅やショッピングセンターなど人が多く集まるところで次のような実験をしました。
 女学生二人がベンチに荷物を置き、時刻表を確認するために荷物から離れます。するともう一人の学生が、いかにも人目を避けるように荷物に近づき、そこから何かを取り出してコートの下に隠すフリをし、急いでそこを離れてしまいます。
 やがて戻ってきた女学生は「まあ、私のテープレコーダがなくなっている!」と叫びます。彼女は、そのテープレコーダは上司が特別に貸してくれた高価なものだと泣きながら訴えます(これが居合わせた目撃者に対する事後情報に当たります。実際にはテープレコーダは最初からありませんでした)。そして二人は周囲の目撃者たちに、犯行の様子を教えてくれるように訴え、多くの人は協力を申し出ました。
 後日、それらの目撃者たちに捜査担当者をよそおって話を聞いたところ、興味深いことに、
目撃者の半数以上がテープレコーダを実際に見たと答えているのです。そればかりか、存在しないテープレコーダについて、多くの人がかなりくわしく色はグレーだとか、アンテナがついていたとか、本当に見たようにいきいきと目撃談を語ったのでした。

(※管理人注)文字に色を付けたのは管理人。以下同様。
『超常現象をなぜ信じるのか』(菊池悟・講談社) P.88-89
捏造される幼児体験
 さらに
研究者たちは、まったく体験したことのなかった事件について、偽りの記憶を植え付けることに成功しています。たとえばロフタスとピックレルは、「5歳のころショッピング街で迷子になった」という偽りの記憶を何人もの人に植え付けることに成功しています。
 まず、あらかじめその人の親や兄弟、親戚などから、その人の子供時代のできごとをいくつか教えてもらっておきます。さらにその人は5歳のころ、そのようなショッピング街には行ったこともないし、迷子になったこともないこともあわせて確認しておきます。
 こうして集めた「子ども時代に実際にあったできごと」三つと「ショッピング街で迷子になって老夫婦に助けられた」という架空の迷子事件のあわせて四つを書いた冊子を用意しました。
 次にその人にこの冊子を読ませ、四つのできごとをどれくらい思い出せたか、面接を繰り返して聞き取りました。もちろんその人は、冊子に架空の事件が混じっていることを知りません。
 その結果、実際に体験したできごとの68パーセントはすぐに思い出されました。そして
問題のニセの迷子体験の記憶も、何と24人のうち7人が、一部または全体を本当に思い出してしまったのです。 
『超常現象をなぜ信じるのか』(菊池悟・講談社) P.89-91
誘導尋問の効果
 〜(中略)〜
 
誘導尋問とは、単に相手の口をすべらせて証言を引き出すテクニックではありません。場合によっては相手の記憶を変容させる事後情報として働き、あたかも本当の記憶を引き出すように、偽りの記憶を思い出させることもできるのです。
 ロフタスとパルマーが行った次のような実験でも、質問の仕方で想起される情報自体が変わってしまうことが報告されています。
 参加者は、まず車同士が衝突する場面のフィルムを見せられ、その後で、この事故で車はどれくらいスピードを出していたと思うかを聞かれます。
 ただしこの時、ある人は「車が激突(smashed)したとき、どれくらいのスピードが出ていましたか?」と聞かれ、別の人は「車が接触(hit)したとき」と質問が変えられていたのです。他にも「衝突した」「突き当たった」などさまざまに表現を変えて質問されます。
 その結果、
すべて同じフィルムを見たにもかかわらず、スピードの平均推定値は「激突」の場合は40.8マイルともっとも速くなり、「接触した」は31.8マイルともっとも遅くなりました
 〜(中略)〜
 そこでロフタスらは一週間後に「あなたは車のガラスの破片を見ましたか?」と質問してみました。実際のフィルムでは、ガラスの破片は写っていません。
 その結果、
実際にはなかったガラスの破片を見たという人の割合は、「激突した」と事後情報を与えられている群では、「接触した」群の二倍以上になったのです
 これは
誘導尋問が言語的な反応をゆがめたのではなく、記憶自体をゆがめている証拠と考えることができます。
 このように、我々の記憶は、事後情報が与えられたりして誘導されることにより容易に変容し、また、存在しない記憶を植え付けられて、それを自らの体験として思い出すこともあるのである。

 本書に記載された方法で思い出されたという前世の記憶が、如何に当てにならないものかが分かるであろう。


 さらに、前世療法に関する次のような実験が、『トンデモ超常現象99の真相』に掲載されているので引用したい。
『トンデモ超常現象99の真相』(と学会・洋泉社) P.325-326
 催眠術の下で思い出す前世が本当の前世なのかどうかを確かめる実験は、学術的にいくつもすでに研究が行われている。たとえば1987年に、ケンタッキー大学のロバート・ベイカー名誉教授(心理学)が、事前に刷り込まれた情報と前世を思い出す確率の関係を調べる実験を行っている。
 ベイカー名誉教授は60人の学生を3グループに振り分け、最初のグループの学生には「前世療法なんて、でっちあげのイカレタ療法だ」というテープを聴かせた。次のグループには、「前世療法で過去に行くかもしれないし、行かないかもしれない」といった中立的な内容のテープを聴かせ、最後のグループには、「最近、前世療法という革新的な方法が開発され、時間を遡って旅をする素晴らしい体験ができる」と期待に満ちたテープを聴かせた。
 そうして退行催眠を掛けてみたら、第一グループでは10%しか前世が思い出せなかったのに、第二グループでは60%、第三グループでは85%と、誘導された期待に比例して、前世を〈思い出す〉率が上がっていった。
 
つまり、催眠術によって思い出した前世とは本当の前世ではなく、催眠術師が行う誘導によって、人為的に後から作り出された〈前世〉である可能性が高いのだ。
 ベイカー名誉教授は、退行ばかりか学生を未来へと飛ばす「先行催眠」も試みている。そうしたら、53人の院生のうち9割以上が、過去とともに未来をも〈思い出せた〉という。ただし、その未来は、当然ながら全然当たらなかった。
 
この場合の前世とは、催眠によって誘導されたイマジネーションにすぎなかったのである。
 このように、催眠によって、前世どころか、未来すらも思い出すことが可能なのであり、その思い出された未来は、当然、全然当たらなかったようだ。

 よって、催眠によって思い出された未来と同じように、前世もデタラメのものと考えるのが妥当であろう。




 以上、この書籍に記載された方法で思い出したとされる前世が、真実でないことは明らかであろう。

 この書籍等に掲載されている他の人の前世の例を参考にし、かつ、誘導によって「自分の前世って、どんなだったのかなぁ」と想像したものを、自分の前世の記憶であると勘違いしているに過ぎないのである。


 なお、本書には、催眠によって前世を思い出した人の体験記が掲載されているが、その内の1つを(その2)にて見て行きたい。



2011.09.20 新規

所詮、記憶なんて誘導等で簡単に変容するもの。
「自分の記憶にあるから真実だ」なんて、安易に思い込まない方がいいゾ。