『引き寄せの法則 エイブラハムとの対話』にツッコミ!

書 名  引き寄せの法則 エイブラハムとの対話
著 者  エスター・ヒックス + ジェリー・ヒックス / 吉田利子(訳)
出版社  SoftBank Creative
価 格  1,700円(税別)
 出版年月  2007年10月

●本書概要

 エイブラハムという霊のグループからもたらされた霊示の内容をまとめた書籍。
 簡単に言えば、自分の思いが現実を引き寄せるから、良いことだけを考えろという「引き寄せの法則」を勧める本。

●ツッコミ

 
エイブラハム様が明かしてくれた「宇宙の法則」は次の通り。
第一の法則「引き寄せの法則」:あなたは思考の波動と同じものを引き寄せる。「類は友を呼ぶ」
・・・「それ自身に似たものを引き寄せる」ということ。これは宇宙のなかで最も強力な法則――あらゆるとき、あらゆるものに働く法則。この強力な法則に影響されないものはいっさいない。

第二の法則「意図的な創造の方法論」:考えたことは実現する。だから欲しいものに思考を向けよ。
・・・「わたしが考え、信じ、あるいは期待したことは、実在する」ということ。要するに何かを考えると、望んでも望まなくてもそれが存在として現れる。だから「意図的に」思考を作用させること、それが「意図的な創造の方法論」の内容。

第三の法則「許容し可能にする術」:自分の世界に集中し、思考が実現することを期待せよ。
・・・「わたしがありのままのわたしで、他者がありのままの他者であることを許容し、可能にしよう」ということ。あなたが思考を通じて(あるいは関心を向けることを通じて)他者を自分の人生に招き入れなければ、他者はあなたの経験の一部にはならないし、あなたが思考を通じて(あるいは観察することを通じて)ある状況を人生に招き入れなければ、その状況はあなたの経験の一部にはならない。
(※帯、及び、P.57-58 要約)
 早くも一つ目の法則でダウトである。「『それ自身に似たものを引き寄せる』ということ」「宇宙のなかで最も強力な法則」で、「この強力な法則に影響されないものはいっさいない」らしい。

 少し考えれば、この法則に反した、「それ自身に似たものを反発、遠ざける」例など簡単に思いつくだろう。
 近親憎悪という言葉があって似ているものを嫌う例もあるし、動物のオスが縄張りを作って、別のオスがその縄張りに入ると激しく攻撃する例もある。
 そもそも、「この強力な法則に影響されないものはいっさいない」のなら、磁石のN極とN極は反発せずに引き合わなければならない。

 よって、この宇宙を支配するような「引き寄せの法則」など存在しない。

 自分と同じ趣味を持っている人と出会ったなら互いに引き合う可能性は高いし、一方、自分がある集団の中で特別な技能を持っていてちやほやされている場合、その集団に同じ技能を持った人が新たに加わってきたのなら、その人を排除して自分の地位を守ろうとするケースもあるだろう。
 結局、「それ自身に似たものを引き寄せる」か否かはケース・バイ・ケースなのである。

 そして、第一の「引き寄せの法則」は、次の通り、第二、第三の法則の基礎、前提となるものであるから、エイブラハムが主張する「宇宙の法則」とやらは破綻している。前提が破綻しているのだから当然であろう。
第一は「引き寄せの法則」だ。この法則を理解して効果的に応用できるようにならなければ、第二の法則である「意図的な創造の方法論」と第三の法則である「許容し可能にする術」も活用できない。 (P.57)

 力強い「引き寄せの法則」を理解し、自分の人生経験を「意図的に創造」しようという意志を持てば、いずれは「許容し可能する術」の完全な理解と応用だけが生み出す比類ない自由に導かれる。(P.59)
 もうこの時点で、この書籍に読む価値がないことは明白だろう。存在しない「宇宙の法則」とやらについて書かれている本だからだ。


 念のため、これらの法則に基づいて導き出された同書の他の主張にもツッコミを入れてみたい。
 この強力な「引き寄せの法則」を理解すれば――いやむしろ「思い出せば」と言うべきかな――身の周りでこの法則が働いていることはすぐにわかる。あなたは自分が考えていることと実際に経験することの正確な対応関係に気づくだろう。どんなことでも、いきなり経験のなかに現れることはない。あなたがそれを――そのすべてを――引き寄せている。例外はいっさいない。 (P.63)

 望むか望まないかにかかわらず、考えていることが実現するのだから。
 あなたは考えも向ける対象を経験のなかに招き寄せ始める。例外はない。(P.65)
 自分が考えたことが実際に経験として現れ、それには正確な対応関係があるらしい。
 しかし、正確な対応関係などないことは、自分の経験を振り返ってみればすぐに分かるだろう。思ってもみなかったことが起きたことなどいくらでもあるはずだ。
 また、例えば、「災害は忘れた頃にやって来る」と言う諺があるが、もし、エイブラハム様が言っていることが本当であるなら、こんな諺は存在しなかったであろう。災害のことを忘れたのなら、もはや災害を引き寄せなくなったはずだからである。

 そして、経験はすべて自分が全て引き寄せたもので、例外は一切ないらしい。
 アフリカ大陸の黒人は「いずれ白人がやってきて、自分たちは奴隷として売買されるようになる」と心配ばかりしていたからそうなったのか?
 パンにカビが生えるのは、パンが「カビが生えたらどうしよう」と心配ばかりしているからなのか?
 強い感情を引きおこさない思考には、大きな磁力はない。言い換えれば、あなたの思考のすべてには潜在的な創造力というか可能性を引き寄せる磁力があるが、強い感情と組み合わさった思考がいちばん強力だということだ。 (P.80)
 これも自分の経験を振り返ってみれば、ウソであることがすぐに分かるであろう。「強い感情と思考が結びついた時のみ自分の経験として現れた」ということなどありえないし、逆に、ひどく侮辱された相手に対して、強い感情をもって「死ねばいいのに」と思っても、相手は死んだりしなかったろう。
 ハイジャックを計画している人間はその思考を強化するが、ハイジャックを「恐れている」人間もまたその思考を強化する。望まない対象でも、そこに関心を向ければ対象の力はどんどん強まる。だからネガティブな情報をいっさい自分の経験に持ち込みたくないと思う人は、そもそもマスコミの報道など見ないだろう。 (P.93)

 病気のことを考え、病気を心配すればするほど、病気を引き寄せることになるのだ。(P.95)
 デタラメの「引き寄せの法則」は、このようなデタラメの結論に人を導くらしい。
 ハイジャックが起きて欲しくなければ、それを心配して対策を講じるなんて逆効果。また、病気になることを心配して、食生活に気を配ったり人間ドックに行ったりするのも逆効果なのだろう。ハイジャックについても病気についても一切、考えないのが一番良いようだ。

 パンは心配しなくても(そもそも心配できないが)菌が付着してカビが生えるのだから、同じように人間も心配しなくても菌が体内に入って病気になる。当たり前のことだ。
ジェリー まず、身体的健康のことなんですが、わたしは子どものころ、長い間、極端に病弱でした。それから少し大きくなったとき、もう病気は嫌だと思い、それ以来、基本的にはとても健康になりました。 (P.235)
 著者自ら、エイブラハム様の「宇宙の法則」の反例を上げてしまっている。
 「病気は嫌だ」というのは病気に意識が向いている行為で、エイブラハム様の話では、このような思考は病気をもたらすはずである。もし、「引き寄せの法則」が本当に存在しているのなら、ジェリーは健康にはならなかったであろう。




 以上、まとめると、このエイブラハム様が言っていることは、ただのペテンである。
 起きた出来事に対しては、「『思い』が実現したからだ」と言い、思って起こらなかった出来事に対しては、「『思い』が足りないからだ」と言っているだけ。

 確かに、人間の思考が現実に影響を与えるケースもある。
 例えば、明るく前向きな考えの人が、その逆の考えの人より成功する確率が高いのは確かだし、また、悩みを抱え、心配ばかりしていると、頭がはげたり、胃潰瘍になったりする場合もある。しかし、それは、物事の一面であって全てではない。

 エイブラハム様は、その、物事の一面だけを捉え、それに反する事象・事例は無視して全体に適用し、極論を述べているに過ぎない。


 なお、エイブラハム様の「引き寄せの法則」は、占い師がよく使う「曖昧な条件つきの予言」という手法を使用している。

 「曖昧な条件つきの予言」とは、例えば、「あなたが真摯に取り組めば、必ず仕事は成功する」などといった予言をすることである。
 この予言では、「真摯に取り組めば」という曖昧な条件が付与されている。いったい、どの程度、熱心に取り組めば、真摯に取り組んだことになり、また、そうならないのか、非常に曖昧である。

 よって、この予言を与えられた人が実際に仕事で成功したのなら、占い師は「私の言った通りに、真摯に取り組んだ結果だ」と言えばいいし、一方、失敗したのなら、「仕事に対する真摯さが十分でなかったからだ」と言えばいいのである。

 どっちに転んだとしても、予言が当たったことにしてしまえるわけである。


 これを前提に、エイブラハム様の「引き寄せの法則」のトリックを説明してみよう。

 エイブラハム様は、「強い感情と組み合わさった思考がいちばん強力」などという表現で、思考が現実を創造すると主張しているが、この表現が「曖昧な条件」に相当する。

 思考が現実を創造できる状態・状況が曖昧だからこそ(そもそも、明確に示すことなどできないが)、望みが叶った信者には、「『引き寄せの法則』のおかげだ」と言い、一方、望みが叶わなかった信者には「思いが足りなかったからだ」と言えばいいというカラクリである。
 そうやって、信者をいつまでも騙し続け、自分は「宇宙の法則」を明らかにした者だと吹聴していられるのである。


 また、そもそも、これから起こる現実の予言をしていないことが、エイブラハム様がインチキであることの良い証拠であろう。
 エイブラハム様ほどのお方であれば、人々の「思い」の状態を見て、これから起こる現実の予言もできるはずである。ぜひ、事前に「人々の思いが結実して、いついつ、どこそこでハイジャックが起きますよ」などと予言をして欲しいものだ。
 また、このような書籍を出す著者は相当に自分の「思い」をコントロールする術に長けているのだろうから、ぜひ、「これから宝くじの一等を当てます」と予告してから宝くじを当てて欲しいものである。

 そんなことは実際にできないし、もし、したら、インチキが明らかになってしまうから、やらないのである。


 以上、この書籍のような「『思い』が現実を創造する」と称して、現実を創造する為の「思い」を作りあげる手段・方法を説明する本は、かなり以前から多く出回っていて、今さら目新しい話でもない。

 それらの本の話を真に受けて、強い思いを発する練習や、強いイメージを作りあげる練習をするのは、馬鹿らしいからやめた方がいいだろう。



2010.11.15 新規

前向きな考えを持つことは良いことだけど、極端に転ぶと変な方向に行っちゃうゾ。