『前世を知って幸せになる本』にツッコミ!(その2)
※当記事は(その1)からの続き

 (その1)では、本書の方法で思い出した前世の記憶が、如何に当てにならないものであるかをツッコんだ。当記事では、本書に掲載されている、前世を思い出した人の体験記の内の1つを見て行きたい。


 まずは、その体験記の表題である。
<P.68>
長年苦しんだパニック障害が前世を思い出したら軽快!
天職にも導かれ収入増!

 34歳 パート 群馬県 藤木聖さん(仮名)
 藤木さんは、前世を知ることによって、パニック障害が軽快になり、また、天職にも導かれたらしい。

 具体的に体験記の内容を見て行こう。
<P.68>
パニック障害の原因は前世にもあった

 
始めてその不思議な写真が撮れるようになったのは、2006年1月のこと。その日、「太陽がきれいだなぁ」と思い、ふと携帯のカメラで太陽を撮ってみたのです。写ったものを見ると、あら不思議! 目で見るのとは全然違う、カラフルな写真が写っていました。
 それ以来、私が太陽を撮ると、必ずそのような美しい色が写り込むようになりました。特殊な加工をしたような光ですが、いっさい加工はしていません。

※(管理人注)文字に色をつけたのは管理人
 藤木さんが太陽を撮ると、必ず、カラフルで美しい色が写るらしい。
 そして、その写真の例として本書に掲載されているのが以下のものである。
<P.68>
 確かに、カラフルで普通の写真ではない。
 この写真については、後ほどツッコミを入れるので、とりあえず、今は置いておこう。

 なお、写真の下の説明文は少し頭に入れておいて欲しい。

 そして、
<P.68>
 写真の評判は、またたく間にヒーラーやセラピストといった、スピリチュアルの専門家に伝わりました。そして、それは「太陽のオーラの写真」であると教えてもらいました。どうして自分にこんな写真が撮れるようになったのか、さっぱりわかりませんでしたが、私の魂はちゃんとその秘密を知っていたのです
 ヒーラーやセラピストたちによると上記写真は、「太陽のオーラの写真」らしく、また、何故、そのような写真が撮れるのかは、藤木さんの魂に秘密があるらしい。

 続いて、藤木さんが前世療法を受けるきっかけとなった話が語られる。
<P.68>
 それは、「前世療法」によって明らかになりました。私が前世療法を受けたのは、もともとは、10年以上も悩み続けたパニック障害を治したいという思いからでした
 最初にパニック発作が起こったのは22歳のとき、就職試験の面接から帰る電車の中でした。〜(中略)〜
 病院に通い、さまざまな薬物療法や心理療法を受けても改善することなく、苦しみは増すばかり……。
 そんなとき、近所の本屋さんで偶然、『前世療法』(17ページ参照)を見つけたのです。本を読み、私の心の病の原因は現世ではなく、それ以前の人生、つまり過去世にあるのではないか? と思いました。
 その後運よく、県内でヒプノセラピーをされているヒーラーと出会い、
2006年3月に初めて退行催眠を体験しました。私が前世療法のセッションで見た、たくさんの前世のうち、最も現世への影響力が強いと思われるのが次の3人です。
 前世療法を受けたのは、「パニック障害を治したいという思いから」だったようだ。そして、退行催眠を初めて体験したのが「2006年3月」のことと記されている。

 ここで気づいた方も少なくないのではないかと思われるが、先の写真には「太陽の写真を撮るようになったのは前世を知ってから」と言う説明文があった。

 しかし、初めて退行催眠を受けたのが2006年3月、そして、カラフルな太陽の写真を始めて撮ったのは先に引用した通り、2006年1月。よって、
写真の説明文はウソであることが分かる。太陽の写真は前世を知る前から撮るようになったのである。

 なんだろうねぇ、このデタラメな説明文は。。。

 さて、藤木さんの体験談の続きである。
<P.68-69>
 1人目は、20代くらいの太平洋戦争時代あたりの日本兵でした。おそらく一番近い前世で、ジャングルを駆けずり回る自分、突っ込んでくる飛行機、戦車の上で銃を構えるアメリカ兵……。それらの光景がありありと見えました。
 若き日本兵は、「こんな生き方はしたくなかった」と息絶えます。悲しい記憶の洪水の中、現世の私へのメッセージとして最後に彼の声が聞こえてきました。
 
「僕の恐怖が、そのままいってしまって、ごめんね……」
 私は嗚咽しながら、無念のうちに亡くなっていった前世の自分の分まで、今生を一生懸命生きようと心に誓いました。
 2人目は、時代をさかのぼって平安時代。ここでは、美しい十二単を着た貴族の娘でした。しかし、父親が望んだ政略結婚に背いたため、家を追い出され出雲の巫女になったそうです。当時の巫女は、基本的に外出を禁じられていたため、彼女は一生涯、本殿でがんじがらめの生活を耐え忍んだようです。
 
現世で私が抱く、漠然とした不安や人込みでの恐怖感。それは日本兵時代の戦争の悲惨な記憶と、閉じ込められていた巫女時代の無念な記憶が複雑に重なり合い、生まれたものだと知りました。
 パニック障害は、前世で日本兵と巫女だった時の記憶が原因だそうだ。

 そして、三人目の前世は、
<P.69>
前世が教えてくれた現世の私の「天職」

 
3人目の人物に出会ったのは、時代も国境も超えた古代エジプト。私は黒髪のおかっぱ頭で、クレオパトラのような外見。左腕には金のアクセサリー、肩にはタカのような大きな鳥を乗せています。
 セッションをしてくれたヒーラーによると、
彼女もまた巫女でエジプトの太陽神ラーを崇め、音楽や絵画を使って人々の傷や病を癒していたそうです。
 彼女は凛としたまなざしで、現世の私に言いました。「しっかり前を向きなさい」「いつでも太陽を見なさい」。そう、
この前世こそが、不思議な太陽のオーラ写真が撮れるようになったゆえん。あなたのおかげだったのね……。心の中でつぶやいた瞬間、魂は時空を超えて、自分の使命、仕事を教えてくれているのだと直感し、感謝の涙があふれてきました。
 〜(中略)〜
 おかげさまで私の写真は全国のかたがたに支持され、
今年の1月には青山で個展を開くまでになりました。このように夢中になれるライフワークを見つけたことで、長年悩んでいたパニック障害も少しずつやわらぎ始めました。徐々にではありますが、今まで怖いと思っていた場所にも出かけられ、行動範囲が広がって楽しく過ごせるようになっています。
 3人目の前世が古代エジプトで太陽神ラーを崇めていた巫女で、この前世が不思議な太陽のオーラ写真が撮れるようになった理由らしい。

 そして、太陽写真の個展を開くまでになって、「このように夢中になれるライフワークを見つけたことで、長年悩んでいたパニック障害も少しずつやわらぎ始めました」そうだ。

 さて、ここで、この藤木さんの体験談の表題を思い出して欲しい。それは以下のものであった。
<P.68>
長年苦しんだパニック障害が前世を思い出したら軽快!
天職にも導かれ収入増!
 パニック障害がやわらぎ始めたのは、ご本人が述べているように「夢中になれるライフワークを見つけたこと」が理由であり、前世を知ったことが直接的な理由ではない。(ただし、前世を知ることが、そのライフワークを見つけることにある程度寄与しているとは思われるが)

 それを、「長年苦しんだパニック障害が前世を思い出したら軽快!」などと、
「前世を思い出しただけで軽快になった」かの如く表現するのは、正確ではなく、誤解を誘導するものと言わざるを得ない。

 そもそも、前世を知る前に、太陽のオーラ写真は撮られ、かつ、その評判は広まっているので、前世を知ることがなくとも、個展開催へと行きついた可能性も高いと言えるだろう。
 そして、そうなれば、「夢中になれるライフワークを見つけたこと」で同様にパニック障害がやわらいだことであろう。

 上記の表題は、本件における前世療法の効果を過大に評価し過ぎだと言える。

 そして、先述の通り、「太陽の写真を撮るようになったのは前世を知ってから」と言うウソの説明もあった。こちらも、前世療法の効果を不当にアピールするものである。

 おそらく、このような表題や説明文をつけたのは、悪意からではなく、
「前世療法が効果があると思いたい、思って欲しい」という欲で目が曇り、客観的に物事を見ることが出来ていないからではないかと思われる。


 さて、保留しておいた例の太陽のオーラ写真について、ツッコミを入れたい。

 これは、本当に太陽のオーラが写り込んだものなのだろうか?

 ネットで調べてみると、この藤木さんは、ご自分が撮った写真をHPやブログで公開されている。
 そして、そのブログで次のような記載を見つけた。
<http://ameblo.jp/fuekiyo/theme-10039851164.html>
その後も撮り続けましたが、弱い光の時以外は、すべてカラフルに撮れました。
デジカメや他の携帯で撮るとカラフルではないので、今の携帯が特別なんですね(笑)
 どうやら、特定の携帯のみで太陽のオーラ写真が撮れて、他のデジカメや携帯では撮れないらしい。

 もし、太陽のオーラ写真が撮れることが、前世で太陽神の巫女であったことに起因しているのなら、どのカメラで撮っても同じ結果にならなければおかしいであろう。個々のカメラではなく、個人に属する特性・能力になるはずだからである。

 もう、この時点で妖しさ満点なのだが、さらに、それを裏付ける為に、私も携帯電話のカメラで太陽を撮ってみた。

 左側が撮ったままの写真、右側が色調補正(色相+150、彩度+93)を施したものである。
 色調補正を行えば、普通の太陽写真も、本書の太陽のオーラ写真と似た色調のカラフルな太陽写真が出来上がることが分かると思う。
 ちなみに、私の写真の場合、太陽の周りに黄緑色の楕円が複数、写り込んでいるものもあるが、これは、カメラのレンズ内で太陽光が反射したり分光したりした結果であり、特別な現象ではない。
<P.68>
 それでは、夢を壊すようで申し訳ないが、結論を言おう。

 本書で太陽のオーラ写真とされているもの、それは、太陽のオーラが写り込んだ写真なんかではない。単に、携帯電話のカメラが壊れているだけである。

 携帯電話のカメラには、露出や手ブレ等を自動的に補正する機能がついていて、見えているものがそのまま写真として保存されるとは限らない。特定の条件下では自動的に補正された写真が保存されることになるのである。

 
そして、おそらく、この方の携帯のカメラは、露出を補正する機能が壊れているのである。

 露出補正機能とは、例えば、逆光で人を撮った場合、何もしないと背景が明るい為に人は真っ黒になってしまう。それを自動補正して、人が真っ黒にならないようにする機能である。

 上記に引用したブログの「その後も撮り続けましたが、
弱い光の時以外は、すべてカラフルに撮れました」という言葉もそのことを裏付けていると言えよう。

 強い光が入って来た時に、それを補正しようとして失敗し、結果として、このようなカラフルな画像となってしまっているのである。




 以上、ヒーラーやセラピストたちの「太陽のオーラ写真」であると言う鑑定や、「太陽神ラーの巫女だった」という前世も、上記の写真を「特別なもの」と勘違いし、その思い込みから連想された単なる想像に過ぎない。


 続いて(その3)では、本書に記載されている、2割もの子供が出生前記憶を持っていると言う主張について見て行きたい。



2011.09.27 新規

管理人が加工した写真も、「不思議な写真が撮れたんです」と言ってヒーラーに見せたら、「太陽のオーラーが写り込んでいる」とか「前世が太陽神の巫女だった」などと言ってもらえそうだナ。