悟りと魔境(その4)
(その1)(その2)(その3)からの続き


 (その3)に引き続き、当記事では、魔境を悟りだと勘違いしたと思われる例として、オウム真理教のケースを見て行きたい。



3.自称霊能者たちの神秘体験



(3).オーム真理教のケース

 オーム真理教の麻原彰晃(松本智津夫)氏が記し、1988年に出版された書籍『マハーヤーナ・スートラ 大乗ヨーガ経典』には、四人の弟子たちの解脱体験が掲載されている。

 そして、その体験記の前置きとして記載されているのが次の文章である。
『マハーヤーナ・スートラ 大乗ヨーガ経典』 (麻原彰晃/オウム/1998.2) <P.152>
 次に載せるのは、成就者四名の体験である。彼らの克明な修行記録の中から、特に成就前後に話をしぼった。それは、日本で初めて明かされる成就の瞬間であり、あとに続く修行者への貴重な道標となろう。
 ところで、
四名のうち、三名はクンダリニー・ヨーガの成就を得、一名はラージャ・ヨーガの成就を得たのであるが、彼らとて成就前は普通の人であった。つまり、どこにでもいるような人間で、誰にでもあるような感情を持っていたのである。それは、体験記録を読めば良くおわかりになるだろうが、私にザンゲした内容も、殺生・盗み・邪淫・嘘・プライド・・・・・・と今の彼らからは想像もできないようなものだった。そういうすべてのものを通り越しての成就だったのである。
 ただ、彼らはラージャ・ヨーガの条件である意志の強さや、クンダリニー・ヨーガの条件である献身・愛・生命エネルギーに関しては抜群のものを持っていた。このことはつけ加えておこう。
 それから、それぞれのヨーガは、成就してから完全に完成するまでに少し時間がかかる。体験記録において、少しレベルが違うのではないかと感じるのは、そこに原因があるのである。つまり、どれだけ完成に近付いているかによって違うのである。そのことをご承知おきいただきたい。 


(注)文字に色を付けたのは管理人(以下同様)
 このように、四名は解脱して「三名はクンダリニー・ヨーガの成就を得、一名はラージャ・ヨーガの成就を得た」らしい。

 本書を参考にして簡単に用語を解説しておくと、オウム真理教では修業のステージとして次のような段階があるとされている。なお、本書には明確に述べられていないものもある為、曖昧で不明瞭な箇所があるのはご容赦願いたい。
ステージ名 内容 参考ページ
預流向(よるこう) 入口のステージ。聖なる流れに身を委ねる。具体的には、仏陀と仏陀の説く真理(法)、及び、仏陀の教えを実践している人達に帰依する。  P.27-30
一来向(いちらいこう) 現象界(欲六界)で修業をする。

※現象界(欲六界)とは、仏教で言うところの六道で、人間界を含めた天界、阿修羅界、動物界、飢鬼界、地獄界の総称。ただし、オウム真理教では「現世」と同じ意味で使用されているようである。
P.30,272
不還向(ふげんこう) 現象界には生まれ変わらずに、アストラル世界に生まれ変わってそこで修業をする。 P.30-31
阿羅漢向(あらはんこう) ニルヴァーナに入る資格を得る

※ニルヴァーナは一般に、「涅槃」と訳されるが、本書では、「小乗の修行者が行く最高の世界」と解説されている。
P.31,272
ラージャ・ヨーガ 布施から始まって、持戒、意志の強化、精進、禅定、智恵という六つの極限の修行をする。特に、強靭な意志が必要。 P.31
クンダリニー・ヨーガ 強靭な意志に加えて、エネルギー(=生命力)が必要。
体内において上昇したエネルギーが頭頂を突き抜けた時、エネルギーと知性が合一して、大脳に特殊な働きをせるようになる。
P.31,32
ジュニアーナ・ヨーガ 顕在意識を消して行き、潜在意識にアプローチする。
本当の意識である潜在意識によって分析するので、そこから導き出された原因と結果は真実のものとなり、苦の原因を立ち切って、苦から解放されることになる。
P.32
大乗のヨーガ ジュニアーナ・ヨーガは個が中心だったが、このステージでは自と他との区別を完全になくしてしまう修業をする。 P.33
アストラル・ヨーガ 自分の欲求や過ちをアストラル界で形を持たせ破壊する。そうすることによって煩悩が消える P.33
10 コーザル・ヨーガ コーザル世界の光の中に没入していき、自分の持っているデータ(過去の思考や経験?)を作り替え、浄化する。 P.34
11 マハーヤーナ 最終ステージ。情報を入れる器が残っているだけの状態で、何にも影響されない状態になる。 P.34
※上記は、主に「第一話 預流向からマハーヤーナまで」(P.27-34)の内容をまとめたもの。
※ちなみに、本書プロフィールによると、麻原彰晃氏は1986年にヒマラヤにて最終解脱を果たしたらしい。
 概観すれば、4までの仏教の概念・教えの上に、あまり深く考えずに5以降のヨーガを主とした概念を上乗せしただけのように見え、また、内容が雑然としていてきちんと整理・体系化されて説明しきれていないように思える

 例えば、2「一来向」が現象界の修行で、3「不還向」「アストラル世界に生まれ変わってそこで修行」するのなら、3「不還向」以降のステージは現世での修行は不可能であろう。

 また、5「ラージャ・ヨーガ」で出て来る布施、持戒、精進、禅定等の仏教系の概念は4までの段階までで終わってそうなもので、今さらという気がする。

 そして、8「大乗のヨーガ」で自他の区別が完全に無くなった後に、9「アストラル・ヨーガ」で自分の煩悩を消すのも順序が逆であると思える。煩悩は思いっきり個に属し、むしろ、明確に自他を区別するものだと言っていい。それを消す前に、何故、
「自他の区別を完全に無くす」ということが出来るのだろうか。

 
どうも、「洗練された」と言うには程遠い各スタージ分けのようにしか思えない。

 さらに、先述のように、四人の解脱者たちは、上記表の5「ラージャ・ヨーガ」、または、6「クンダリニー・ヨーガ」を成就したらしいのだから、成就前には既に、4のニルヴァーナ(涅槃)入りは果たしていたことになる。もし、それが本当なら、その時点でもかなりすごい人物になっているはずなのだが・・・


 さて、この四人の解脱者たちは、解脱(5「ラージャ・ヨーガ」、または6「クンダリニー・ヨーガ」の成就)する為に「独房修行」なるものを行ったらしいのだが、この「独房修行」についても前提知識として抑えておきたい。
『マハーヤーナ・スートラ 大乗ヨーガ経典』 (麻原彰晃/オウム/1998.2) <P.152>
 独房修行とは、外界を完全に遮断した個室で行われる、解脱直前の修行者のための極限的な修行のことである。解脱、悟りを目差すヨーガ修行においては、潜在意識にアプローチし、煩悩を消滅させることが不可欠となる。瞑想前のプラーナーヤーマやムドラーというヨーガ技法も、すべて顕在意識を落し、潜在意識に入るために行うものである。

 〜(中略)〜

 オウムで行われている、この独房修行では、
修行者は完全に採光を遮断した個室にこもり、一日平均十八時間の修行をこなす。外に出るのは浄化法という行法のときだけで、食事(一回)、トイレ等の世話は係りの者が行うことになっている。
 このように「独房修行」とは、光も含めて外界を完全に遮断した個室にこもって極限状態となり、長時間の修行を実施することのようである。

 なお、「解脱、悟りを目差すヨーガ修行においては」「煩悩を消滅させることが不可欠となる」とあるが、上記表にあるように、煩悩を消してしまうのは9「アストラル・ヨーガ」の段階のはずである。やはり、教え・思想がきちんと整備されておらず、混沌としているように思える。

 と言うか、まだ煩悩が残っているのに、4「阿羅漢向」のステージはクリアしていて、ニルヴァーナ(涅槃)に入る資格は得ているとはどういうことだろうか。。。




 以上、前提となる説明だけで長くなってしまったので、ここでいったん切り、個別の解脱体験については(その5)で見て行きたい。



2014.8.19新規

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