『前世を知って幸せになる本』にツッコミ!(その4)
※当記事は、(その3)からの続き


 本書には、催眠療法や前世療法をガンなどの治療に役立てていると言う医師の萩原優氏(イーハトーフヴクリニック院長)の寄稿があるので、当記事ではその内容にツッコミを入れて行きたい。

 まず、萩原氏が使用している催眠療法が、どのようなものかを押さえておきたい。
<P.36-37>
 私が行っている催眠療法は、主に自然治癒力を高めることをしています。例えばこんな感じです。
 ○○さんは今、大きな建物の長い廊下を歩いています。いろんな扉があるでしょう。(はい、あります)
 どんな色の扉がありますか。(ピンクだったり、白だったり、ああ、あそこは灰色の扉です)
 そこは○○さんの肺の扉ですよ。開けてみましょう。中はどんな感じですか。(暗いです。黒い湿ったゴミが散乱しています)
 それでは、その部屋をきれいにかたづけましょうか。(そうですね。きれいさっぱりしたいです)
 どうなりましたか。(ゴミを捨てて、壁紙を明るい色にしました)
 気分がいいでしょう。(はい)
 これは、
身体の不調と向き合う対話型の催眠療法です。問題のある身体部位や器官を「部屋」とみなして、健康な自分を取り戻していくわけです

(※管理人注)文字に色を付けたのは管理人。以下同様。
 このように、催眠状態にある患者に、問題のある身体部位や器官を「部屋」としてイメージさせ、それを掃除させることによって健康を取り戻していくようである。

 そして、萩原氏が行っているこのような催眠療法や前世療法の治療効果の例が、本書では2点あげられている。

 まず、一つ目である。
<P.37>
潜在意識が「きれいな肺」を認識すると、自然治癒力で肺がきれいになっていくのです。同時に、行動も変わり、肺を汚していた原因行動も自然にやめられます。
 ここで、萩原氏が催眠療法の効果として上げているのが以下の2つ。
@.潜在意識による自然治癒力の発揮。
A.原因行動の中止
 さて、@で、「潜在意識による自然治癒力の発揮」が主張されているが、同時に、Aで「原因行動の中止」も起こるらしい。

 原因行動の中止とは、例えば、「タバコをやめる」と言うものだろう。そして、それはまさに、催眠術の効果として納得できるものである。

 また、そのような原因行動をやめれば、当然、肺はきれいになって行くが、萩原氏はどうやって、@の「潜在意識による自然治癒力の発揮」を確かめたのだろうか?

 果たして、本当に「自然治癒力で肺がきれいになって」いるのだろうか?
 単に、原因行動が無くなって肺がきれいになっただけにも関わらず、「自然治癒力で肺がきれいになって」いると思い込んではいないだろうか?

 この疑問はいったん置いておいて、萩原氏が主張している二つ目の効果の例を見てみよう。
<P.37>
 私が前世療法を試みてきた人の7〜8割が前世まで退行し、過去の人生の出来事を体験しています。残りの2〜3割のかたは、前世まで退行しなくても、今生の過去に原因があり、そこで解決しています。
 
ガン患者さんには、前世療法などのスピリチュアルな療法と、サプリメントなどの代替療法を併用しています。あるかたの場合、見違えるほど元気になり、検査すると、腫瘍が70%小さくなっていました。
 なんと、「腫瘍が70%小さくなっ」て、「見違えるほど元気にな」ったらしい。

 しかし、これも、「前世療法などのスピリチュアルな療法と、サプリメントなどの代替療法を併用」したものであって、どちらの効果があったかは不明。両方の可能性もあるし、一方のみの可能性もある。はたまた、別の要因だった可能性もある。

 しかも、「あるかたの場合」とあるので、これは一人だけに起きた特別な例だと分かる。

 そもそも論で言えば、催眠療法などを行っていない一般の医院なら、「腫瘍が70%小さくなっ」たケースどころか、腫瘍が無くなったケースもザラにあるだろうに。(私は良く分からないが代替療法界では、「腫瘍が70%小さくなっ」たのはすごいことなのだろうか?)


 さて、萩原氏が催眠療法や前世療法の効果例としてあげている2つのケースを見て来たが、まず、言えることは、
 読者が、催眠療法や前世療法の効果について客観的に判断できる情報があげられていない
と言うことである。

 上記に記載されたような例を上げられた所で、何でも安易に受け入れてしまう騙されやすい人ならともかく、少しでも客観的に物事を考えられる人なら、催眠療法に効果があるとは判断しないだろう。

 何故なら、そこには、催眠療法の効果について、客観的に判断する為の材料が一切無いからだ。

 むしろ、「あるかたの場合」と一人だけに起きたケースを上げているのを見ると、逆に、
「催眠療法の効果があると示す為の事例が、その一つしか無いんじゃねーの?」と疑いたくもなるものである。

 他の患者はどうだったのだろうか? どの程度割合の人が70%と言わないまでも、状況が改善したのだろうか? それも全く分からない。

 そして、この一人だけに起きたケースでは、「腫瘍が70%小さくなっ」て、「見違えるほど元気にな」ったとしか書かれていない。
 穿った見方をすれば、果たしてこの人は、「残った30%を切除等して完治して退院した」のだろうか、それとも、「それ以上悪化も回復もせずに入院したまま」なのだろうか、はたまた、「その後、悪化した」のだろうか。これも不明である。

 結局、萩原氏が催眠療法の効果としてあげている事例は、全くの意味のない無価値な情報に過ぎないのである。(ただし、先に記載したように、何でも安易に受け入れてしまう人に「へー、腫瘍が70%も小さくなったんだ。すごい!」と思わせる効果はあるが)


 さらに、このような、結果として意味のない例を記載していることから、分かることは、
 萩原氏自身が催眠療法の効果について、客観的・科学的に判断できていない可能性がある
と言うことである。

 もし、萩原氏が自ら行っている催眠療法の効果について客観的・科学的に把握しているのなら、必ず、それを記載するはずである。それを示すしか、読者に客観的に判断する材料を提供する手段など無いからである。(どこまで詳細に書くかは別にして)

 客観的に判断できる材料を提供せずに、上記のような意味の無い例をあげていることは、つまりは、萩原氏が自分が行った催眠療法の効果について、客観的に把握できていないであろうことを意味している。

 そして、上記のような、催眠療法の効果があったのかどうか判別できない事例でもって、「ああ、やっぱり、催眠療法は効果あるなぁ」と自己満足している可能性があり、かつ、そんな程度で自己満足しているからこそ、上記のような例を記載して、「ほら、催眠療法ってこんなに効果があるんですよ」とアピールしていると考えられるのである。

 最近は、ガン患者の死亡率を公開している医院もあるが、せめて、それらと比較して当医院の死亡率が圧倒的に低いとかのデータが欲しいものである。(それでも、代替療法と催眠療法のどちらの効果かは分からないが)


 なお、参考までに、人の主観と言うものが如何に当てにならないかについての説明を引用しておく。
『クリティカルシンキング 入門篇』(E.B.ゼックミスタ / J.E.ジョンソン 北大路書房) P.206-207
主観的確証
 
主観的確証とは、有利とも不利ともつかない証拠を、自分にとって有利なものとして、すなわち自分の信念を支持するものとして読みとってしまう傾向である。いいかえるなら、人はいったんある考えを受け入れてしまうと、たとえ証拠がなくても、あるいは証拠がその考えを否定するようなものであっても、証拠が自分の考えを支持しているものとみなす傾向があるのである。
 〜(中略)〜
 そういう意味で信念は、自己永続的な性質をもつといってよいだろう。
 主観的確証の一つとして
期待効果がある。これは、見ようと期待しているとその通り見えてしまう効果である。この効果を検証した興味深い実験を見てみよう。被験者に課せられた課題は、観察者としてプラナリアという扁平な虫の行動を記録することであった。被験者が観察して記録すべき行動は、プラナリアの頭が回転する回数とプラナリアの体が収縮する回数であった。プラナリアは、プラスティックの板で仕切りをされた水槽の両側に入れられていた。観察者は三つのグループに分けられ、観察前にそれぞれ別の教示が与えられた。それは、

  「回頭や収縮はたくさん見られるでしょう」(第一グループ)
  「回頭や収縮はあまり見られないでしょう」(第二グループ)
  「半分のプラナリアは回頭と収縮の発生率が低く、半分は発生率が高いでしょう」(第三グループ)

というものであった。ただ実際には、使われたすべてのプラナリアの行動には変わりはなく、観察者の期待の高低だけが違っていたのである。つまり、第一グループと第二グループは、同じプラナリアを異なる観察者が異なる期待をもって観察したものである。第三グループは、同じ観察者が異なるプラナリア(実際は差が無い)を異なる期待をもって観察したものである。この実験の結果、同一の観察者であろうと別の観察者であろうと、観察者の期待が高いと、回頭や収縮の回数が二倍以上多くの報告されていたのである。
 このように、人は、主観的確証という特性を持っているため、「ある方法を試したら、効果があった!」と言うたぐいの報告は何の根拠にもならないと言っていい。
 主観から切り離された、客観的な情報こそが根拠になりえるのである。


 ちなみに、一応、断っておくが、私は、催眠療法に効果が無いと言いたいワケではない。

 ストレスによってガンになる場合もあるから、そのストレスを催眠療法で取り除けはガンが軽減する可能性があるだろうし、ヘビースモーカーに催眠療法で禁煙させれば、当然、肺は綺麗になるだろう。
 また、アメリカでは催眠療法の博士号が存在しているほど、認知されたものである。

 私が言いたいのは、上述の通り、萩原氏が自分が実施している催眠療法の効果を、科学的・客観的に判断できていない可能性があると言うことである。




 以上、上記の萩原氏や(その3)の池川氏の例、また、インチキ宗教にはまる医師がいることからも分かるように、医師だからと言って客観的・科学的な判断ができるとは限らない。

 よって、「医師の人も本当だと言っているから」とか、「医師の人も支持しているから」等と言う理由を、本書のようなスピ系の内容を信じる根拠にはしないことである。



2011.10.11 新規

上記は医師の例だが、他の知的職業の人でも同じだゾ。

同じ宗教に弁護士や大学教授もいるからって安心しない方がいいゾ。