『前世を知って幸せになる本』にツッコミ!(その3)
※当記事は、(その2)からの続き


 当記事では、本書に記載されている、2割もの子供が出生前記憶を保持していると言う主張について見て行きたい。

 まずは、本書に記載されている「出生前記憶」の説明を見てみよう。
 なお、本書の該当記事は、池川明氏(池川クリニック院長)が担当している。
<P.34>
5人に一人が「お空の上」を確認

「パパとママを選んだんだよ。ずっと待ってたんだよ」(2歳男の子)
「パパとママの声聞こえたよ。パパがぞうさんを歌ってた」(3歳女の子)
「お母さん大好き」って言うために生まれてきたんだよ」(5歳男の子)
 皆さんは、「胎内記憶」がありますか?
 胎内記憶とは、お母さんのおなかの中にいたときの記憶です。
胎内記憶、生まれたときの記憶(「誕生記憶」)、受精以前の魂だった「中間世の記憶」「前世の記憶」を合わせて「出生前記憶」と呼びます

(※管理人注)文字に色を付けたのは管理人。以下同様。
 生まれる以前、母親の胎内にいた時やその前の魂だった時等の記憶を「出生前記憶」と呼ぶらしい。

 そして、池川氏は「出生前記憶」の有無について調査したようで、
<P.34-35>
 さらに、2002年8月、長野県諏訪市の20ヵ所の保育園と幼稚園にて、1773名に胎内記憶のアンケートを協力していただきました。回答数838件。そのうち「胎内記憶がある」は34%(288)名、「誕生記憶がある」は24%(197名)。
 その次の、長野県塩尻市19の保育園でのアンケートは、1828名(うちアンケート回収は782名)。このときは、
「胎内記憶がある」は31%(243名)、「誕生記憶がある」は18%(137名)でした。
 その後の聞き取りを含めてわかったことは、幼児の30%に胎内記憶があり、誕生記憶は20%、そして
中間世(子どもが言うには「お空の上」)の記憶を持つ子が20%もいるのです。前世(過去世)の記憶を話す子も稀におり、0.8%。100人に1人程度です。
 胎内記憶や誕生記憶がある子供は、18%〜34%だったらしい。

 
結論から言えば、このアンケートには全く意味がない。

 何故なら、(その1)で心理学の実験例を3点記載したように、記憶と言うものは容易に変容するものであり、また、誘導によって偽りの記憶を植え付けることも簡単に出来てしまうものだからである。

 (その1)に記載した実験例の一つ目では、もともと存在しないテープレコーダについて、「まあ、私のテープレコーダがなくなっている!」と叫ぶことによって、目撃者の半数以上に、テープレコーダを見たと言う偽りの記憶を植え付けることに成功している。

 上記のアンケートでは、「あなたは、出生前記憶を持っていますか?」というような質問がなされたと思われるが、この質問自体が、「出生前記憶」と言うものが存在することを前提としたものであり、これが偽りの記憶を植え付ける誘導となってしまうのである。

 さらに、対象は保育園児、幼稚園児であることから、より分かり易く、例えば、「ある子供は、お母さんのお腹に入る前に、雲の上からお母さんのことを見ていたことを覚えているんだって。○○ちゃんは、そんなこと覚えてる?」と言うように、具体例を示しながら質問をしたのではないかと思われる。
 そして、そんな具体例を示してしまえば、さらに強力な誘導となってしまうことになる。

 本書には、アンケートの具体的な実施内容は記載されていないが、以上のような、誘導しまくり、偽りの記憶を植え付けまくりの状況であったのではないかと思われる。(そもそも、実施内容を記載していないこと自体が、そのようなことを知らず、何の配慮もなされなかったことを示していると言える)

 もし、真剣にこのようなアンケートをしたいのであれば、まず、対象として、出生前の記憶や前世、魂と言った先入観を持っていない子供を選定しなければならない。TV等のメディアや親から、そのようなものを肯定する話を聞かされている時点で、偏見を持って回答してしまうからである。次に、質問自体が誘導とならないような仕方での質問が必要となろう。

 その実施は、非常に困難なものになることが予想されるが、このような細心の注意を払った上でのアンケートでなければ、いくら、多人数にアンケートを取っても無駄なだけなのである。


 ここまで来れば、本書で主張されている子供の「出生前記憶」とやらが、如何に当てにならないものであるかをご理解いただけたと思うが、さらに、上記のアンケート等で得たと思われる子供の証言内容にも少しツッコミを入れておこう。

 当記事の最初に引用したように、本書には、「パパとママを選んだんだよ。ずっと待ってたんだよ」(2歳男の子)と言う、受精以前の魂だった頃の「中間世記憶」の事例が掲載されている。

 仮に、この記憶が本物だったと仮定しよう。そうすれば、この子供は、母親の胎内に入る前から、パパやママという人間を識別できていたことになる。

 通常、人間の乳幼児は、次のような過程を経て、人の顔を識別する力を獲得して行く。
○生後1ヵ月頃・・・人の顔をじっと見つめるようになる。
○生後2ヵ月頃・・・人の顔を見るとき、目や鼻、口に注意を向けるようになり、「人の顔らしさ」に反応するようになる。
○生後3ヵ月頃・・・誰を見ても笑いかけるようになる。
○生後6ヵ月頃・・・見慣れた人だけに笑顔を見せるようになる。
○生後8ヵ月頃・・・初対面の人に対しては怖がって泣くようになる。
(※参考:『図解雑学 心理学入門』(久能徹/松本桂樹・ナツメ社))
 このように、本来なら、乳幼児が人の顔をきちんと区別できるようになるのは、生後6ヵ月頃からなのである。

 そして、もし、上記のような「中間世記憶」が本当なら、その子供は、このような過程を経ることなく、生まれた時から、自分の親と他人を識別できていたことになる。

 この子供は恐らく、「いないいない、ばあ」なんかをされても決して喜ぶことなどなかったであろう。これは、顔と言うものが認識出来始めた頃の乳児に対して有効な遊びに過ぎないからである。

 そして、本書によると、中間世の記憶を持つ子供が20%もいるそうだから、かなりの数の子供が上記のような成長過程を経ずに、生まれた時から親の顔を識別できていることになる。

 果たして、そんなことはありえるだろうか。 
ありえるわけがない。

 この子供の事例も、
「『中間世記憶』を持っていた」などと言うような特異な説明をするまでもなく、「単に、偽りの記憶を本当の記憶だと錯覚しているだけ」と捉えた方が、はるかに説得力のある説明ができる。

 この子供は、生まれる前から、近親者と他人等を識別できる能力を持っていたワケではない。
 そして、2歳という、その能力を獲得した後で自分が生まれる前の状況を想像したから、識別できている状態での想像となったのである。そして、その子は、その想像したものを自分の記憶だと思い込んでいるに過ぎない。




 以上、池川氏が実施した「出生前記憶」のアンケートなど、全くの意味のないもの。

 このようなアンケート結果で、子供たちが「出生前記憶」や前世の記憶を持っている証拠にはならないし、また、人間が魂の存在であることの根拠にもならないのである。


 続いて(その4)では、前世療法を治療に役立てていると言う医師の記事にツッコミを入れたい。


2011.10.04 新規

「5人に1人が『お空の上』を確認」なんて、そんな「如何にも」で、ステレオタイプな記憶を聞いた時点で、おかしいと思わなくちゃいけないゾ。