インチキ占い師・霊能者の手口(その2)

 ※当記事は(その1)からの続き。



2.ホット・リーディング

 こちらもまず、Wikipediaの定義を見てみよう。
Wikipedia「ホット・リーディング
超能力や霊感によるリーディング(他人を読み取り、過去や現在を言い当てたり助言や将来の予言などをすること)に際して、事前に得た情報を利用すること。
 定義だと分かりづらいかも知れないが、要は、事前に相手の情報を入手した上で、さも、超能力等を使って読みとったかの如く、相手の情報を言い当てたりすることである。

 この「ホット・リーディング」を使用した具体的手口を何点か紹介しよう。

 まずは、『改訂版 大予言の嘘』(志水一夫)に記載されている手口である。
『改訂版 大予言の嘘』 (志水一夫/データハウス/1997) P.17-20 (要約)
○占い師は弟子と二人組

○依頼者はまず前室に通されて、そこで、弟子から「鑑定依頼書」が渡され、住所氏名や相談内容等を記入させられる。

○次に、依頼者は占い師のいる鑑定室へ通され、そこには弟子も同席する。

○占い師は、依頼者が住んでいる場所や家族構成、相談内容などをズバズバと言い当てる。

○もちろん、「鑑定依頼書」は占い師に渡されることはなく、また、事前に、弟子がその内容を伝えている様子もなかった。

○実は、占い師と弟子との間には予めサインが決められていて、依頼者に気づかれることなく、「鑑定依頼書」の内容を伝えていたのであった。
 結局は、事前に書かされた内容を言葉を変えて伝えられているだけなのだが、依頼者は、占い師がその情報を知らないと思い込んでいるので、まんまと騙されてしまうという話である。

 なお、文章で読めば、チャチなトリックで、すぐにバレてしまいそうに思うかも知れないが、それほど簡単な話でもない。

 依頼者は、占い師に相談に行くくらいだから、占いというものをある程度信じていると言っていい。そして、そのような人は通常、占い師に「よく当たる占い師とそうでない占い師がいる」という認識はあっても、「詐欺」という認識はない。

 つまり、その固定観念から、占い師に見てもらった場合、「よく当たる占い師か、そうでないか」という分類しかできず、「さっき書いたことを言われているダケじゃん!」なんて考えは思い付きにくいのである。

 もちろん、「鑑定依頼書」の内容をダラダラと読み上げるように言えば、さすがにバレるだろうが、それを、バレないように、如何にも占いで出た結果であるかのように伝えるかが、インチキ占い師の腕の見せ所だと言えよう。

 ちなみに、予め決められているサインであるが、野球の監督が選手に出すサインのようなもので、その方法はいくらでも考案可能なのだが、本書に記載されているものを参考までに引用しておく。
『改訂版 大予言の嘘』 (志水一夫・データハウス/1997) (要約) 
○超能力者(自称)に語りかける助手の「コレハなんですか?」とか、「ドウカ、ハッキリ言って下さい」などと話かける何気ない言葉の1つ1つが数字に対応した暗号になっていて、その数字を組み合わせることによって、簡単な単語さえも伝えることができる。(P.19

○弟子が置く座布団の角度で、事前に書かせた依頼者の悩みの内容を伝える。(P.21)

 さて、上記は結構、単純なものだが、次に、もっと狡猾で手の込んだ手口を紹介しよう。

 それは、『だましの手口』(西田公昭)に記載されているものだが、どうやら、統一教会が使っていたものらしい(今も使っているかも知れないが)。
『だましの手口』 (西田公昭/PHP新書/2009) P.67-73 (要約) 
○被害者の松本めぐみさんは50才で専業主婦。

○松本さんは、フラワーアレンジメントの教室に通っており、そこで、静江という友達ができた。

○ある日、静江から、「今度、すごい霊能力者が近くに来るので、行ってみない?」と誘われる。静江も友人から聞いたらしく、見てもらったことはないらしい。

○静江に連れられ、その霊能力者の相談会に行くが、静江はその霊能力者がいかに優れているか、また、忙しい霊能力者に会ってもらうことが、如何にラッキーなことかを松本さんに伝える。

○松本さんが、その霊能力者に会うと、自分から何も説明していないのに、息子や娘のことなどをズバズバと言い当てる。

○松本さんは驚き、一方で、安心するような言葉が返されるので気分が良くなって行く。

○話は急転直下し、家系に悪い因縁があって、このままでは夫が重い病気にかかって早死にすると伝えられ、その兆候が、嫁と姑の不仲になって現れるはずだと言われる。

○松本さんは、姑との不仲のことも言い当てられた為、その言葉を信じて恐怖を抱き始め、どうしたらいいか、その霊能力者に尋ねる。

○その霊能力者から、「三代続けて出家するのが、通常の方法ですね。お姑さんと、あなたと、そして息子さんか娘さんのいずれかですね」という答えが返って来たので、とても無理な話に松本さんはうろたえる。

○その様子を見た霊能力者は、「祈ってみましょう」と言って出て行き、約20分後に戻って来て、「運が開ける宝塔があります。これを授かって、毎日拝むといいでしょう」と告げられる。

○松本さんは、そうするしかないと思い、その宝塔の値段を聞くと、2千万円という回答が返って来て、また困ってしまう。

○松本さんが他の方法がないかを尋ねると、霊能力者はまた「祈ってみましょう」と言って部屋から出て行く。

○同席していた静江が松本さんに「いくらぐらいだったら用意できるの?」と尋ね、松本さんは貯金や保険などをかき集めても7百万円ぐらいしかないことを告げる。

○霊能力者が帰って来て、やはり、宝塔を授かるしかないことを告げる。霊能力者が、宝塔の効用を説明し始めた時、静江がトイレに行く。

○静江が戻ってくると、「もう一度、祈ってまいりましょう」と言って霊能力者が部屋から出て行く。

○霊能力者が戻って来て、「私の霊能力によると、あなたは7百万円ぐらいしか用意できないと、顔に書いてあります。ですから、特別にお祈りしてみたら、あなたの場合、お姑さんと仲良くしていく努力をなさるという条件で、7百万円の宝塔を授かって、毎朝毎晩一生懸命拝みなさいとのお告げが出ました」と告げる。

○松本さんは、またもピッタリと当てられたことにびっくりして、とうとう宝塔を購入してしまうことになる。
 既にお分かりだと思うが、静江と霊能力者は最初からグル。静江は、フラワーアレンジメントの教室に通ってカモを探していたのである。

 そして、そこで松本さんというカモを見つけて友達になり、家庭の事情や悩み等の情報を入手した上で、霊能力者に会うよう仕向けたのである。

 正直、このような手の込んだ卑劣なやり方をされれば、中々、インチキであることを見抜けないのではないかと思う。まさか、フラワーアレンジメントの教室で友達になった相手が仕込みであるとは思わないであろう。

 また、静江は、松本さんが霊能力者に会う前に、さんざん、その霊能力者がいかに優れているかを吹聴し、先入観を植え付けている。
その先入観があるから、ズバズバ当てられると、それが、霊能力によるものだと素直に信じてしまい、疑いを持つのは難しいのである。

 さらに、松本さんが7百万円しか出せないことを霊能力者に伝えたのも静江であるが(実は、もう一人待機している人物がいて、その人物が情報を仲介した)、霊能力者と静江が同時に部屋からいなくなったりせずに、疑いをもたれないよう小細工をしている。


 ただ、それでも、「『高額な宝塔を買わせる』なんて話が出て来たら、さすがに、ただの霊感商法だと気づくだろ」と思う人もいるかも知れない。しかし、実際は、第三者として文章を読んで思うほど、簡単には気づけない。

 上記では、いろいろと心理的なテクニックを使用しているのだが、まず、「最初に相手の気分を良くすること」もその一つである。

 例えば、
○「あなたは優れた才能・力を持っているのに、その優しさから、いつも他人に譲ってしまうので、社会的には恵まれない生活を送っていますね。」

○「あなたは、とても温かいオーラを持っていますね。純粋な動物たちはそれを感じていて、すごくあなたに安らいでいるはずです。」(※ペットを飼っている人に)

○「あなたは、周りの人たちを良い方向へと変えて行く力を秘めています。周りの人たちは変化を恐れて時に反発することもありますが、そういうあなたに大きな魅力を感じています。」
なんてことを言われれば、通常、「ほんとかな?」と思いつつも、テレて嬉しく、気分が良くなるはずである。

 そして、この「気分が良くなる」というのが実はクセモノで、
人は、気分を良くしてくれた相手に対しては、警戒心が小さくなってしまうのである。

 例えば、セールスマンは基本的に、取引をしたい相手を褒める。それは相手自身だったり、相手の家や趣味等だったりするが、セールスマンがそうするのも同様の理由であり、相手の警戒心を小さくして取引を成立しやすくする為である。彼らは、知識として、もしくは、経験的に、そうすることが商談の成立確率を格段に上げることを知っているのである。


 また、上記の松本さんのケースでは、ズバズバと自分のことを当てられるという驚きと感動の只中にいる。それに「気分が良くなる」という状況が加わって、警戒心は限りなく小さなものになってしまっていると言えよう。

 そして、その気分上々の所へ、一転、「夫が病気で死ぬかも」というマイナスの情報が与えられるわけだが、確認済みの相手の霊能力のすごさに加え、その兆候としての「姑との不仲」も当てられることにより、その予言が松本さんの中で大きな現実味を持つことになるのである。

 そのような状況下で、松本さんには霊能力者から解決策が提示されるのだが、提示方法も、これまた、「ハイ・ボール・テクニック」と言われる手法が使用されている。

 「ハイ・ボール・テクニック」とは、最初に、とても取れないような無理なボール(要求)を投げ、次に、ギリギリ取れるようなボール(要求)を投げることによって、後に投げたボール(要求)が取り易いものと勘違いさせる手法のことである。ビジネス書などでもよく登場するので、ご存知の方も多いことだろう。


 上記の例で言えば、松本さんは、まず、次のような解決策が提示されている。
三代続けて出家するのが、通常の方法ですね。お姑さんと、あなたと、そして息子さんか娘さんのいずれか
 どう考えても無理難題な解決策であるが、霊能力者のことをホンモノだと信じ切っている松本さんは、これを「んなアホな」とは思えない。

 しかし、実行するには難易度が高すぎる解決策である。

 そして、困っている松本さんに、今度は、難易度を下げた次のような解決策が提示される。
2千万円の宝塔を購入して毎日拝む
 もし、ここで、松本さんが2千万円を用意できるのなら、そこで終了である。しかし、やはり、2千万円は大金なので松本さんはまた困ってしまい、最後に提示されたのが次の解決策である。
2千万円の宝塔を7百万円で購入して毎日拝む
 この7百万円も松本さんが貯金や保険を解約してやっと用意できる金額である。

 最初に、この3番目の解決策が提示されていたのなら、きっと、松本さんは悩み、すぐに答えは出せなかったことだろう。

 しかし、インチキ霊能力者が「ハイ・ボール・テクニック」を使った為に、松本さんは、最後の解決策がかなりハードルが下がったもののように感じてしまい、むしろ、「無理して安くしてもらって有り難い」ぐらいに思っているのである。




 以上、「ホット・リーディング」について2ケースを見て来たが、事前に情報を入手した上で、霊視や占いで当てたフリをするのであるから、完全に詐欺であると言えよう。

 また、事前に情報を入手する方法については他にも、「興信所を使う」というオーソドックスなものから、「自称・霊能力者や自称・超能力者同士で膨大な『顧客名簿』を作成し、依頼に来た者の悩みなど背後関係に関する情報を共有する」(※参考:Wikipedia「ホット・リーディング」)なんてことまであるらしい。

 事前の予定なく、ふらっと入った占いの館でズバズバと当てられても、安易に信じない方が良いと言えよう。


 さて、この「ホット・リーディング」であるが、通常、「コールド・リーディング」という手法と併用されることが多い。

 事前に「鑑定依頼書」を書かせて、そこに書かれた内容しか当てられないのであれば、不審に思われる確率が高くなるからである。

 続いて、この「コールド・リーディング」という手法について見て行きたいが、続きは(その3)にて。


<参考>

 上記で2ケース目に引用した書籍『だましの手口』(西田公昭)は、振込詐欺等の詐欺や霊感商法・宗教等の「だましの手口」が実例付で解説されている書籍である。

 世の中に、どのような「だましの手口」があるかを知っておくことは、だまされない為に有用であると言えよう。

 また、文章も平易で分かり易く、詐欺に騙されてしまう心理や、騙されない為の心構えなども説明されているので、一読をお薦めする。

    





2012.03.05新規
















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