『龍蛇族直系の日本人よ!』にツッコミ!(その4) ・・・ 浅川嘉富さま
※当記事は、(その1)(その2)(その3)からの続き



 本書では、熊本県山都町にある幣立神宮の宮司が書いた書籍『青年地球誕生』(明窓出版)の内容を引用しているのだが、これまた、偽書の『竹内文書』を想起させるトンデモである。(※『竹内文書』の偽書っぷりについては(その5)にて説明)

 とりあえず、該当箇所を見てみよう。
<P.42,44>
 天孫降臨の神話においては、天照大御神の孫にあたる邇邇芸(ニニギノ)(ミコト)がこの地上界に降りた地が高千穂とされているが、実はこの幣立の地にはそれより遥か以前に、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)という二柱の神が、宇宙船を思わせる「日の玉」に乗って降臨したとする別種の高天原神話が残されている
 この幣立神宮の主祭神について、同神宮の春木宮司は著書の『青年地球誕生』(明窓出版刊)の中で次のように書かれている。
幣立神宮の主祭神
 幣立神宮は高天原神話発祥の神宮です。通称、高天原・日の宮と呼び親しみ、筑紫の屋根”の伝承があります。神殿に落ちる雨は東と西の海に分水して地球を包む、すなわち地球の分水嶺とも言われています。
 この
幣立神宮の主祭神は次の通りです。
 神代文字で表された古名()()()()()()()()
神漏岐命・神漏美命の二柱の神の大御名(宇宙から御降臨の神・宇宙意志)であり、
 
大宇宙大和神(神代七世の初代)
 
天御中主大神(天神七代の初代)
 
天照大神   (地神五代の初代)
の三柱を加えた五柱を主祭神として、
人類文化創造の原点となる尊い神々です。 

※管理人注: ■・・・神代文字と称する文字で書かれている箇所。また、文字に色を付けたのは管理人(以下同様)。
 どうやら、「幣立の地には」「二柱の神が、宇宙船を思わせる『日の玉』に乗って降臨したとする」話が残されているらしい。(ちなみに、降臨したのは1万5千年前らしい(P.46))

 そして、この伝承が残っているとする幣立神宮の主祭神は、次の五柱のようだ。

    @.神漏岐(カムロギノ)(ミコト)
    A.神漏美(カムロミノ)(ミコト)
    B.大宇宙大和神
    C.天御中主大神
    D.天照大神

 見慣れている神から、順に説明して行こう。

 D.天照大神は、説明するまでもなく、神道の最高神。

 次に、C.天御中主大神は、『古事記』において最初に生まれた神。この神は、延喜式(平安時代中期に編纂)にも祀る神社の記載はなく、奉祭氏族も少ないことから、
日本古来の神ではなく、中国思想を基に『古事記』(712年)が創作した神であるということで、諸説はおおよそ一致している(※参考:『歴史読本 2011年11月号』 新人物往来社 P.62)。

 その神を、天照大神より前の実在の人物(?)としている時点で、幣立神宮の上記の話は
かなり怪しい

 続いて、@.神漏岐(カムロギノ)(ミコト)とA.神漏美(カムロミノ)(ミコト)である。一般にはあまり聞き慣れない名であるが、『続日本紀』や『延喜式』祝詞などに見える神である。『神道事典』の説明を見てみよう。
『縮刷版 神道事典』 (國學院大學日本文化研究所/弘文堂) P.39
 概括的に男性と女性の祖神の意。『続日本紀』『延喜式』祝詞、『中臣寿詞』『常陸国風土記』『出雲国風土記』『続日本後記』『古語拾遺』に用例がみられる。カムは神を指し、ギとミがそれぞれ男・女を指すという点では多くの論が一致しているが、ロの解釈をめぐって分かれている。この解釈について、岐・美が男神・女神を指すという従来の説に対して、加茂真淵は神漏を神皇として、岐・美は男君・女君であるとした。本居宣長は神漏岐・神漏美は神生祖君・神生祖女君であるとして、真淵の解釈に加えて祖先神の意が含まれることを指摘した。総括的にいえばこれらの神は祖神の意である。二神を区別して述べる場合には男性の神と女性の神を指し、二神を区別せず対句的に用いる場合には単に祖神を指している。これらが実際にどの神々を指すかについても歴史的にいくつかの説がある。『古語拾遺』では高御産巣日神・神産巣日神がこれにあたるとしている。真淵はこれらの神をはじめとしてすべての皇祖神を指すとしており、宣長は高御産巣日神と天照大神であるとしている。今日では、この語自体が特定の神を指すものではなく、記載された文献により指示する神々は異なると考えられている。
 ここに述べられているように、「概括的に男性と女性の祖神の意」の神であり、「記載された文献により指示する神々は異なると考えられて」いる。

 つまりは、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)は、固有名詞ではなく、一般名詞だと考えれば分かり易いのではないかと思われる。だからこそ、文献によって、漠然と祖神を指す場合もあれば、一方、特定の神を意識した場合もあるのだろう。

 よって、一般名詞の神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)を主祭神にすえるのもおかしな話で、たとえるなら、
「ウチの神社の主祭神は、『御先祖』という名前の神です」と言っているようなものではないかと思う。

 まあ、好意的に解釈すれば、
「本当に、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)という名前の神がいて、後世、そのことが忘れられて、祖神を指す一般名詞として使われるようになった」とも考えられなくもないが。


 そして、最後に、B.大宇宙大和神である。

 この神様の名前、「宇宙から御降臨の神・宇宙意志」という文章のすぐ後に記載されていて、笑えてくる。

 「大宇宙大和神」の「宇宙」って、現在の「宇宙」の意味で使ってますよね? 英語のcosmosとかspaceの意味ですよね?(笑)

 ちなみに、「宇宙」という言葉自体は昔からあり、『日本語源大辞典』では次のように説明されている。
『日本語源大辞典』 (前田富祺(監修)/小学館)
「日本書紀−神代上」の「不可以君臨宇宙」は、古訓ではアメノシタと読まれ、「地上、天下、国家」などの意味で用いられている
◆中古でアメノシタに相当する語は仏教語の「世界」であって、「宇宙」はあまり用いられなかった。中世になると、通俗辞書の類で「宇宙」にウチウの読みとともに、オホゾラ・アメノシタ・アメガシタなどの訓が付けられるが、「日葡辞書」に「文書語」とあるように、まだ日常的な語ではなかったと思われる。 
 このように、「宇宙」は『日本書紀』にも登場するが、当時の読みは「アメノシタ」で、「地上、天下、国家」などの意味

 ただし、漢代の書物『淮南子斉俗訓』(*)では、
「宇」は「天地四方上下」(つまり、三次元空間全体)「宙」は「往古来今」(つまり、時間全体)を意味すると記載され、「宇宙」で時空(時間と空間)の全体を意味するようである。(※参考:Wikipedia「宇宙」)
*『淮南子』 ・・・ 前漢の武帝の頃、淮南王(紀元前179年-紀元前122年)が学者を集めて編纂させた思想書
 この、『淮南子斉俗訓』に記載された意味でB.大宇宙大和神の「宇宙」が名づけられたとも考えられなくもないが、どう考えても、ネーミング・センスが現代人なんだよねぇ。

 天孫のニニギが天降りしてきたのは高
原からだし、宇宙の星々が集まって川のように見えるところはの川。この世全てを表す時は下だし、あの世とこの世も含めた世界は下。そして、上を見上げて、月や太陽、星々があるところはであり、空。

 古代において、同様の意味の名前が付けられるとすれば、普通、「宇宙」ではなく、「天」が付けられると思うのだが。。。

 ちなみに、引用された『青年地球誕生』の文章の中には、神代文字の説明として「太陽のように輝く
宇宙船が地上に降り立つ」(P.44)というものがあり、幣立神宮の主祭神が宇宙船に乗ってやって来たことを想起させるものもある。


 さらに、この、B.大宇宙大和神の読みがワケが分からない。

 どうやら、「オオトノチオオカミ」らしいのだが、「大(オオ)宇(ト)の宙(チ)大(オオ)和(?)神(カミ)」だろうか。

 順番的には「宇」の読みが「ト」のようだが、『学研 漢和大字典』(学習研究社)を見てみても、そんな読みなどない。しかも、「和」なんて読みには含まれていない。
なんなんだよ、この読みは!?

 なお、「オオトノチ」に似た名前の神として、神世七代の第五代に「大戸之道(オオトノヂノ)(ミコト)」がいる。
「本来、この神社で祀っていた神は『大戸之道(オオトノヂノ)(ミコト)』で、『大宇宙大和神』は上記トンデモ話を創作した際に付けた当て字」というオチなのだろうか。(ただし、大戸之道(オオトノヂノ)(ミコト)を祀る神社も聞かないが)


 さて、怪しいこと限りない幣立神宮の話だが、浅川様は、自らの著書で紹介するくらいであるから、かなり真に受けているようである。そして、浅川様によると、以下の通り。
<P.50>
 神道において大変重要とされる大祓詞の最初に登場する神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)の二柱の神が重要な神でないわけがない。伊邪那岐(イザナギノ)(ミコト)伊邪那美(イザナミノ)(ミコト)やそれに続く天照大御神や邇邇芸(ニニギノ)(ミコト)などの神々が日本国を治めるために降臨された存在だとするなら、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)もまた、悠久の太古に人類の誕生にかかわった神々の一柱であったと考えてよさそうである
 神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)もまた、悠久の太古に人類の誕生にかかわった神々の一柱であったと考えてよさそう」だそうだ。

 引用されている『青年地球誕生』によれば、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)が地球に降臨したのは1万5千年前(P.46)。日本は縄文時代で、当然ながら、人類はとっくの昔に誕生している。

 しかも、先に引用した箇所で幣立神宮自身が「人類文化創造の原点となる尊い神々です」と述べているように、あくまで
文化面での貢献が示唆されている。

 なんで、「人類の誕生にかかわった」ことになるのやら。。。


 さらに、上記文章の続きを見てみよう。
<P.50> (※上記からの続き)
 因みに神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)が架空の神々ではないことを確認しておきたかったので神界から来ておられる小学生の坊や和宏君(私とのかかわりについては、第3章で記す)にお聞きしたところ、二柱の神は実際に存在した(ぎゅう)族系の神で、名前はよく似ているが兄弟神ではなく、姿も似ていないという。現在、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)剣を持って神界の外門を守っており神漏美(カムロミノ)(ミコト)槍を持って、仏界の外門を守っているということであった。
 また、
大宇宙大和神(オオトノチオオカミ)や天御中主大神、天照大御神は兄弟神であると共に龍蛇族系の神様であるとのことであった。
 小学生の和宏君に確認をする浅川様(笑)

 そして、この自称「神界から来た」和宏君によれば、大宇宙大和神(オオトノチオオカミ)や天御中主大神、天照大御神は兄弟神」らしい。

 しかし、上述の通り、幣立神宮の『青年地球誕生』では以下の通りであり、

   大宇宙大和神(神代七世の初代)
   
天御中主大神(天神七代の初代)
   
天照大神   (地神五代の初代)

 
この三神が、代を隔てていて兄弟でないことは明らかである。

 また、和宏君は、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)について、「名前はよく似ているが兄弟神ではなく」などと言っている。

 しかし、名前がそれぞれ「ギ」と「ミ」で終わっていることから通常、男神、女神であると考えられ、また、イザナ
ギ・イザナの例から想起されるのは夫婦神である。

 なんだよ、「名前はよく似ているが兄弟神ではなく」って、ワケの分からない前置きは。

 しかも、神界や仏界の門を守っている?? どうやら、和宏君は、この二神を剣や槍を持った武神としてイメージしたらしい。

 一方、当の『青年地球誕生』を見てみると、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)は宇宙から降臨した神で、神漏美(カムロミノ)(ミコト)は地球を代表してその妻となった神。そして、それぞれ、「日の玉」、「水の玉」に宿っているとされている(注)。
(注)
 該当の内容は、浅川様の『龍蛇族直系の日本人よ!』では触れられていない。

 また、『龍蛇族直系の日本人よ!』に引用されている『青年地球誕生』の箇所では、「神漏岐命・神漏美命の二柱の神の大御名(宇宙から御降臨の神・宇宙意志)」とあり、これら二柱の神が共に宇宙から降臨したとしか読めないのだが、『青年地球誕生』の別の箇所では、地中海から発掘された石である「水の玉」が神漏美命であるとしており(P.312-314)、矛盾した記述となっている。
 このように、和宏少年の霊視結果と『青年地球誕生』の主張は全く異なっているのだが、どうやら浅川様は、そのような矛盾はスルーのようだ




 以上、うさん臭い幣立神宮の話であるが、このような話を真に受け、しかも、その内容の確認をする先が小学生。
 さらに、双方の話が矛盾していてもスルー。

 ほんっと、どうしようもねぇな。


 ※(その5)に続く

 なお、幣立神宮については、別途、より詳細にツッコミを入れたい。


2012.12.11 新規

    精神世界
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こんなトンデモ話に興味を持つのは、もう少し、物事の分別が付くようになってからの方がいいゾ。