『青年地球誕生』にツッコミ!(その1) ・・・ 幣立神宮さま

書 名  青年地球誕生
 ― いま蘇る幣立神宮 ―
著 者  春木秀映・春木伸哉
出版社  明窓出版
価 格  1,500円(税別)
 出版年月  1999年6月

●本書概要

 1万5千年前に宇宙神が降臨して以来の伝統を持つ幣立神宮。
 幣立神宮は人類文化創造の原点であり、日本神話の高天原の地だった。



●ツッコミ

 幣立神宮(へいたてじんぐう)

 聞いたことの無い人も多いと思うが、当社では宇宙神を祀り、創建は1万5千年前。日本神話の高天原が当社の地だとし、イスラエルの民がモーゼの神面を奉納したなど、トンデモ伝承を主張している神社である。

 順次、この神社が主張するトンデモ伝承等にツッコミを入れていくが、まずは当社の主祭神を見てみよう。

 なお、基本的に以下のツッコミは、記事『龍蛇族直系の日本人よ!』にツッコミ!(その4) ・・・ 浅川嘉富さま」の内容と基本的に同じものであるが、若干詳細なものとした。
<P.38-39>
幣立神宮の主祭神

 幣立神宮は高天原神話発祥の神宮です。通称、高天原・日の宮と呼び親しみ、筑紫の屋根”の伝承があります。神殿に落ちる雨は東と西の海に分水して地球を包む、すなわち地球の分水嶺とも言われています。
 この
幣立神宮の主祭神は次の通りです。
 神代文字で表された古名()()()()()()()()
神漏岐命・神漏美命の二柱の神の大御名(宇宙から御降臨の神・宇宙意志)であり、
 
大宇宙大和神(神代七世の初代)
 
天御中主大神(天神七代の初代)
 
天照大神   (地神五代の初代)
の三柱を加えた五柱を主祭神として、
人類文化創造の原点となる尊い神々です。 

※管理人注: ■・・・神代文字と称する文字で書かれている箇所。また、文字に色を付けたのは管理人(以下同様)。
 「宇宙からの御降臨の神・宇宙意志」「大宇宙大和神」など、古くから存在する神社とは思えない文言が登場し、怪しい限りである。

 そして、この記載によると幣立神宮の主祭神は、次の五柱らしい。

    @.神漏岐(カムロギノ)(ミコト)
    A.神漏美(カムロミノ)(ミコト)
    B.大宇宙大和神
    C.天御中主(アメノミナカヌシノ)大神
    D.天照大神

 見慣れている神から、順に説明して行こう。

 D.天照大神は、説明するまでもなく、神道の最高神である。

 次に、C.天御中主(アメノミナカヌシノ)大神は、『古事記』において最初に生まれた神で、造化三神と言われる神の一柱である。

 この神は、延喜式(平安時代中期に編纂)にも祀る神社の記載はなく、奉祭氏族も少ないことから、
日本古来の神ではなく、中国思想を基に『古事記』(712年)が創作した神であるということで、諸説はおおよそ一致している(※参考:『歴史読本 2011年11月号』 新人物往来社 P.62)。

 その神を、天照大神より前の実在の人物(?)とし、太古から祀って来たと主張している時点で
かなり疑わしい

 また、『縮刷版 神道事典』によると、以下の通り。
『縮刷版 神道事典』 (國學院大學日本文化研究所/弘文堂) P.49 「アメ(マ)ノミナカヌシ」 ※一部抜粋
『日本書紀』を重視する中世までは原始神の名称の一つとして言及されるばかりであったが、国学者たちが『古事記』を重視するとともに、広く知られるようになり、その意義も高まった。とりわけ平田篤胤がアメノミナカヌシを北斗七星の神・主宰神とする教学を立てたことで、明治初期には大教院の祭神となり、教派神道教団のなかには、この神を奉祀する例もみられた。神仏分離に際しては、妙見信仰系の社がアメノミナカヌシを祭神とした。
 このように、天御中主(アメノミナカヌシノ)神がクローズアップされるのは近世以降、江戸時代の国学者たちによってである。

 よって、
幣立神宮がこの神を主祭神の一柱として設定したのも、その流れの一つであると思われる。


 続いて、@.神漏岐(カムロギノ)(ミコト)とA.神漏美(カムロミノ)(ミコト)である。聞き慣れない名であるが、『続日本紀』や『延喜式』祝詞などに見える神である。『縮刷版 神道事典』の説明を見てみよう。
『縮刷版 神道事典』 (國學院大學日本文化研究所/弘文堂) P.39
 概括的に男性と女性の祖神の意。『続日本紀』『延喜式』祝詞、『中臣寿詞』『常陸国風土記』『出雲国風土記』『続日本後記』『古語拾遺』に用例がみられる。カムは神を指し、ギとミがそれぞれ男・女を指すという点では多くの論が一致しているが、ロの解釈をめぐって分かれている。この解釈について、岐・美が男神・女神を指すという従来の説に対して、加茂真淵は神漏を神皇として、岐・美は男君・女君であるとした。本居宣長は神漏岐・神漏美は神生祖君・神生祖女君であるとして、真淵の解釈に加えて祖先神の意が含まれることを指摘した。総括的にいえばこれらの神は祖神の意である。二神を区別して述べる場合には男性の神と女性の神を指し、二神を区別せず対句的に用いる場合には単に祖神を指している。これらが実際にどの神々を指すかについても歴史的にいくつかの説がある。『古語拾遺』では高御産巣日神・神産巣日神がこれにあたるとしている。真淵はこれらの神をはじめとしてすべての皇祖神を指すとしており、宣長は高御産巣日神と天照大神であるとしている。今日では、この語自体が特定の神を指すものではなく、記載された文献により指示する神々は異なると考えられている。
 ここに述べられているように、「概括的に男性と女性の祖神の意」の神であり、「記載された文献により指示する神々は異なると考えられて」いる。

 つまりは、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)は、固有名詞ではなく、一般名詞だと考えれば分かり易いのではないかと思われる。だからこそ、文献によって、漠然と祖神を指す場合もあれば、一方、特定の神を意識した場合もあるのだろう。

 例えるなら、「ご先祖様」と言った時に、漠然と先祖全てを指す場合もあれば、特定の先祖(例えば、3代前の先祖)を指す場合があるのと同じである。

 よって、一般名詞の神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)を主祭神にすえるのもおかしな話で、たとえるなら、
「ウチの神社の主祭神は、『御先祖』という名前の神です」と言っているようなものではないかと思う。

 まあ、好意的に解釈すれば、
「本当に、神漏岐(カムロギノ)(ミコト)神漏美(カムロミノ)(ミコト)という名前の神がいて、後世、そのことが忘れられて、祖神を指す一般名詞として使われるようになった」とも考えられなくもないが。


 そして、最後に、B.大宇宙大和神である。

 この神様の名前、「宇宙から御降臨の神・宇宙意志」という文章のすぐ後に記載されていて、笑えてくる。

 「大宇宙大和神」の「宇宙」って、現在の「宇宙」の意味で使ってますよね? 英語のcosmosとかspaceの意味ですよね?(笑)

 ちなみに、「宇宙」という言葉自体は昔からあり、『日本語源大辞典』では次のように説明されている。
『日本語源大辞典』 (前田富祺(監修)/小学館)
「日本書紀−神代上」の「不可以君臨宇宙」は、古訓ではアメノシタと読まれ、「地上、天下、国家」などの意味で用いられている
◆中古でアメノシタに相当する語は仏教語の「世界」であって、「宇宙」はあまり用いられなかった。中世になると、通俗辞書の類で「宇宙」にウチウの読みとともに、オホゾラ・アメノシタ・アメガシタなどの訓が付けられるが、「日葡辞書」に「文書語」とあるように、まだ日常的な語ではなかったと思われる。 
 このように、「宇宙」と言う言葉は『日本書紀』にも登場するが、当時の読みは「アメノシタ」で、「地上、天下、国家」などの意味

 ただし、漢代の書物『淮南子斉俗訓』(*)では、
「宇」は「天地四方上下」(つまり、三次元空間全体)「宙」は「往古来今」(つまり、時間全体)を意味すると記載され、「宇宙」で時空(時間と空間)の全体を意味するようである。(※参考:Wikipedia「宇宙」)
*『淮南子』 ・・・ 前漢の武帝の頃、淮南王(紀元前179年-紀元前122年)が学者を集めて編纂させた思想書
 この、『淮南子斉俗訓』に記載された意味でB.大宇宙大和神の「宇宙」が名づけられたとも考えられなくもないが、どう考えても、ネーミング・センスが現代人なんだよねぇ。

 天孫のニニギが天降りしてきたのは高
原からだし、宇宙の星々が集まって川のように見えるところはの川。この世全てを表す時は下だし、あの世とこの世も含めた世界は下。そして、上を見上げて、月や太陽、星々があるところはであり、空。

 古代において、同様の意味の名前が付けられるとすれば、普通、「宇宙」ではなく、「天」が付けられると思うのだが。。。

 ちなみに、本書の中には、神代文字の説明として「太陽のように輝く
宇宙船が地上に降り立つ」(P.39)というものがあり、幣立神宮の主祭神が宇宙船に乗ってやって来たことを想起させるものもある。


 さらに、この、B.大宇宙大和神の読みがワケが分からない。

 どうやら、「オオトノチオオカミ」らしいのだが、「大(オオ)宇(ト)の宙(チ)大(オオ)和(?)神(カミ)」だろうか。

 順番的には「宇」の読みが「ト」のようだが、『学研 漢和大字典』(学習研究社)を見てみても、そんな読みなどない。しかも、「和」なんて読みには含まれていない。
なんなんだよ、この読みは!?

 なお、「オオトノチ」に似た名前の神として、神世七代の第五代に「大戸之道(オオトノヂノ)(ミコト)」がいる。

 
「本来、この神社で祀っていた神は『大戸之道(オオトノヂノ)(ミコト)』で、『大宇宙大和神』は上記トンデモ話を創作した際に付けた当て字」というオチなのだろうか。(ただし、大戸之道(オオトノヂノ)(ミコト)を祀る神社も聞かないが)





 以上、怪しい限りの幣立神宮であるが、続いて、(その2)では、さらに怪しい当社の伝説・伝承などについて見て行きたい。



2013.01.01 新規

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現代的発想に満ちた主祭神や由緒。

既に、最近の創作であることがネタバレか?