『青年地球誕生』にツッコミ!(その2) ・・・ 幣立神宮さま

 (その1)では、幣立神宮の主祭神と由緒について押さえたが、次に当社に伝わるというトンデモ伝承・伝説について見て行きたい。

 ちなみに、当社の話は、基本的に
偽書の『竹内文書』の内容をスケールダウンして、より現実的にしたものとの印象を受けた。よって、以降は、『竹内文書』の内容と比較しながら見て行きたい。
 
※参考:『竹内文書』

 『竹内文書』は、古代より竹内家に代々伝わってきた古文献とされるものなのだが、超古代に天皇が地球を統治していたとしていたり、イエスやモーゼが日本に来て死んだとしたりする荒唐無稽な内容もさることながら、かなり分かり易い偽書っぷりを披露している。

 例えば、太古の昔に天皇がその子息達に世界各地の統治を任せ、その子息達の名前がそのまま地名になったとされているのだが、その一部をあげれば以下の通りである。
インダウ天竺万山黒人民王 → インド
ヨイロバアダムイブヒ赤人女祖氏 → ヨーロッパ
○アジアシャムバンコクムス白人祖民王 → タイ・バンコク
○アシアアンナムノハノイ青人民王 → ベトナム・ハノイ
ヨハネスブルク青人民王 → 南アフリカ・ヨハネスブルグ
○ヒウケエビロスボストン赤人民王 → アメリカ・ボストン
 『竹内文書』が公開されたのは昭和3年のことだが、当時知りえた地名をもとに皇太子たちの名前を作成したのがチョンバレである。

 また、『竹内文書』の中には、「イスキリス・クリスマスの遺言」というイエス・キリストが残したとされる文書があるのだが、何故か、ファーストネームが「イスキリス」と、「イエス・キリスト」を短縮したようなものであるのに加え、それに「クリスマス」が追加されるというワケの分からなさである。(※『竹内文書』の中では、十字架で死んだのは弟のイスキリであって、イエス本人は日本に来て死んだとされる)
 ちなみに、クリスマスの語源は、「キリストのミサ」を意味する英語の「Christ's Mass」である。

 さらに、『謎解き古代文明』(ASIOS・彩図社・2011年)には、『竹内文書』が偽書である根拠として以下の項目があげられている。項目だけ列挙しておくので、興味のある方は該当書籍を参照願いたい。
『謎解き古代文明』 (ASIOS・彩図社・2011年) P.252-253
・当時は使われていなかった文法や仮名遣いの誤りが多々見られる
・名前を少し変えただけの人物が多数出てくる
・地位を表す位階の記述に誤りがある
・史実と合わない
・違う人物による文書が同じ筆跡になっている




1.長大な歴史

<竹内文書>

 神武天皇以前に不合(あえず)朝72代、上古25代、さらに、それより前に天神7代の時代があったとされ、3千億年をゆうに超える歴史が記載されている。


<幣立神宮>

 幣立神宮の由来は以下の通り。
<P.20>
 伝承では、太古地球上で人類が生物の王座に立ったとき、人類が大宇宙の摂理に合った生き方をしないと宇宙自体にヒビをもたらしてしまう”これを天の神様がご心配になり、日の玉に移って御降臨になりました。およそ1万5千年程前、この神様が御降臨された地に日の木”が芽生え、その木に神が神宿り”されました。この、天神木に宿られた神様を、太古の神々(人々)は
 ■()()()()()()()()

と名付けて、地球上の神々の最高神として崇敬しました。後の人(天皇の大祖先)はその神を神漏岐(カムロギノ)神漏美(カムロミノ)の命と尊称して高天原にのみ鎮まります神として伝えてきました。

※管理人注: ■・・・神代文字と称する文字で書かれている箇所。また、文字に色を付けたのは管理人(以下同様)。
 このように、「1万5千年程前」に、天の神様が日の玉に移って降臨して、その地に芽生えた木に宿り、それを人々が地球上の神々の最高神として崇敬したらしい。

 『竹内文書』に比べれば可愛いものだが、神社の歴史としては十二分に壮大な歴史である。

 そして、降臨した神様を「アソヒノオホカミ」と名付けたらしく、どうやら、1万5千年程前の当地では、現代人でも理解できるような日本語が使われていたようだ。

 また、降臨した理由が奮っている。

 「太古地球上で人類が生物の王座に立ったとき、人類が大宇宙の摂理に合った生き方をしないと宇宙自体にヒビをもたらしてしまう”」と神様が心配したかららしい。

 なんか、
如何にも現代人の発想の文章。新興宗教やスピ系で出てきそうな内容である


 また、別の箇所を見てみると以下の通り。
<P.106-110>
2 春木秀映宮司の説
 
春木秀映宮司は「幣立神宮は今から1万5千年前にできた」と言われる。この言葉を聞くと誰もが「そんなに古いわけがない」「証拠はどこにある?」と問い返すだろう。実際、私も春木宮司の言葉をそのような疑惑の目で見ていた一人であった。

 〜(中略)〜


4 最後に
 幣立神宮周辺には今から約1万5千年前後の昔(いや、もっと昔から?)の旧石器時代から縄文時代、弥生時代、古墳時代を経て古代、中世、近世、現代まで連綿として人々が住んでいたことは間違いない。そして、この幣立の地を神が住まわれる神聖な場所として崇めていたことだろう。また、その
当時はいうまでもなく幣立神宮には社”はなく、鬱蒼と繁った森全体が聖域であったことだろう

※管理人注:上記は岡本真也氏の文章。なお、省略した箇所で疑問に対する反論が記載されている。
 春木秀映宮司(本書の著書の一人)は「幣立神宮は今から1万5千年前にできた」と主張しているようだが、どうやら、当時は、社はなく、自然崇拝の形態であったらしい。

 そして、幣立神宮の実際の創建の時期はというと、
<P.233>
 要するに、日の宮の日の宮たる所以は、北天の天極、詮ずるところ広義の高天原より降臨せられた、広義の天孫のご主体を祀ったところにあり、このご主体を神漏岐命として日の宮を創建せられたのが6千年前の皇祖神に当たらせ給う、伊勢の文献に見ゆる、「御祖天御中主尊」におわすのである。
 「日の宮を創建せられたのが6千年前の皇祖神」とあり、結局のところ、幣立神宮の創建は6千年前らしい。


 要は、春木秀映宮司が主張している「幣立神宮は今から1万5千年前にできた」は、自然崇拝の時代も含めての話らしい。

 通常、自然崇拝の時代も含めて
「○○神社は○年前にできた」などとは言わないのだが(参考情報として伝えることはあっても)、「幣立神宮は今から1万5千年前にできた」と言ってしまえるところに、春木秀映宮司の虚栄心が見てとれる思いである


 なお、幣立神宮のそもそもの始まりは、上述通り、宇宙から降臨した宇宙神が天神木なる木に宿ったことからだそうなのだが、この、神が天神木に宿った話は旧約聖書にも記載されているらしく。以下通り説明がある。
<P.40>
 旧約聖書 イザヤ書11章1-2
 
一切の株より一つの芽出で、その根より一つの枝生えて実を結ばん。その上に神とどまらん

 エゼキエル書17章には
 香柏の梢の一つを取りてこれを植え、その芽の嶺きより若芽を摘みとりこれを高き勝れたる山にうゆべし
 とありますが、
幣立神宮の物語と軌を一にする、世界の物語の原型をなしている一つの証明になっているようです

※管理人注: 香柏・・・レバノン杉
 イザヤ書とエゼキエル書の記述をあげ、「幣立神宮の物語と軌を一にする、世界の物語の原型をなしている一つの証明になっているよう」だとの言説。

 まず、イザヤ書の方であるが、
一切の株」ではなく、エッサイの株」である(※一般に、「エッサイの根」と訳されることが多い)。エッサイはイスラエル王国のダビデ王の父で、「エッサイの株」とは「エッサイの子孫」を表している。

 そして、イザヤ書の該当の節は、エッサイの子孫の内の誰かの上に神がとどまることを予言したものであり、つまりは、
人とその子孫を木に例えたもので、かつ、未来の話で過去のことではない。(ちなみに、この記載は、キリスト教ではイエスのことを予言したとされる)


 続いて、エゼキエル書である。

 該当の箇所を、その前後を含めて記載すると以下の通り。
『エゼキエル書』 17章22−24節 (『旧約聖書V 予言書』 旧約聖書翻訳委員会訳/岩波書店)
 主ヤハウェはこう言った。
 「
私は高い香柏の梢を取り去り、これを植えよう。私はその柔らかな新芽を啄み、高く聳え立つ山に植え込もう。イスラエルの高い山に植え込めば、それは枝を伸ばし、実をつけ、立派な香柏になるであろう。その下にはあらゆる小鳥が宿り、翼をもつものは全てその上枝の陰に宿るであろう。こうして、野のあらゆる木々は知るであろう。私ヤハウェが高い木を低くし、低い木を高くし、潤いのある木を枯らし、枯れ木に芽生えさせたのだ、と。私ヤハウェがこれを語ったのである。私がこれを実行する」。

※管理人注:緑色の文章が、『青年地球誕生』に引用されている箇所。
 これは、3‐4節を受け、バビロニアに連れ去られたダビデ王家の末裔が再び回復することが予言されたものである(※『旧約聖書V 予言書』 P.471 注釈11)。

 滅びたダビデ王家(=枯れ木)から梢を取って植え、再び繁栄(=立派な香柏になる)させることを予言したもので、つまりは、ダビデ王家を香柏(レバノン杉)にたとえて、神ヤハウェが語っているのである。そして、こちらも、未来の話で過去のことではない


 このように、これらの記述が、「幣立神宮の物語と軌を一にする」などというのはデタラメもいいところ。

 旧約聖書が
「過去にこういうことがあった」と語っているのならともかく、前後の文脈や時代背景を無視し、都合の良い部分のみを抽出して、無理やりこじつけているダケなのである。





 以上、(その3)では引き続き、『竹内文書』と幣立神宮のトンデモ主張を比較しながら、ツッコミを入れていきたい。



2013.01.08 新規

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なんだよ、「一切の株」って(笑)