『青年地球誕生』にツッコミ!(その4) ・・・ 幣立神宮さま
 ※当記事は(その1)(その2)(その3)からの続き



 当記事でも引き続き、幣立神宮に伝わるトンデモ伝承・伝説を、『竹内文書』と比較しながら見て行きたい。



5.モーゼ

<竹内文書>

 モーゼは日本に渡来して、天皇に謁見して十戒の承認を受け、その後、イスラエルの地に戻ってイスラエルの民を導いた後、最終的に日本で亡くなった。


<幣立神宮>

 まずは、本書のモーゼ関連の記述を見てみよう。
<P.73>
 水の玉には不思議な伝説があります。
 神武天皇が東の方・大和に遷都されたころ、ユダヤ民族は失墜し、
イスラエル十二部族のうち、北の十部族はアッシリアによって永久追放され、世界各地に安住の地を求めて、放浪の旅に出たといわれています。この一部族が、まるで渡り鳥が故郷に帰るように、人類の故郷、日の宮・幣立神宮目指して、渡ってきたと言われます。渡来の目的は、イスラエルの民の生存と真の神の加護を願って、根源の神の宮・幣立神宮にモーゼの魂(モーゼの神面)を奉じ「水の玉」を納めたという伝説です

※管理人注:文字に色を付けたのは管理人(以下同様)。
 どうやら、幣立神宮には、イスラエル十二部族の内の一部族が来て、「モーゼの魂(モーゼの神面)」「水の玉」を納めたという伝説があるらしい。

 モーゼが来日して日本で死んだという『竹内文書』よりはマシな話であるが、
ウソ臭いことこの上ない話である。

 この話の疑問点をあげてみよう。
○強固な一神教のユダヤ教の民が、異国の異教の神殿にお参りしに来るとは思えない。

○偶像崇拝を禁止されているイスラエルの民は、たとえ、神以外の預言者等であろうと、通常、偶像を作ったりはしない。モーゼやダビデ等の像や絵が作られるようになるのは、キリスト教が広まった後のヨーロッパにおいてである。よって、「モーゼの神面」など、まずありえない。

「モーゼの神面」「水の玉」なる神宝があったのなら、それが『旧約聖書』に記載されていないわけがない。
 どう考えても、ありえるワケがない話である。

 なお、本書では、イスラエルの民が最初に日本で居付いた所は天草の鬼島で、その後、熊本県の杵島岳と矢部高原に定着したらしい(P.311)。

 矢部高原の「矢部」の名の由来が本書に記載されているので、それを見てみよう。
<P.312>
 なお、矢部に定着した鬼八法師は、殊に選良民族(ユダヤ)にふさわしく、日の宮に、彼等が最高と仰ぐ「水の玉」の神器と、彼等が畏敬の念で祀っていた、モーゼの神面とを神納したのである。この水の玉が今日も温存されている国津神、神漏美命であることは言うまでもない。そして、日の宮の鎮座まします古代の高天原に対して、彼等がみだりに口にしてはならない聖名のYahveh(ヤーベェ)=矢部=の名を奉呈したのである。それはあたかも明の世祖永楽帝が霊峯阿蘇山に対して寿安鎮国山”の名を奉呈したのと類を一にする。
 しかし矢部の郷民は、この聖名をあまり有り難がらず、「鬼八ドンが八ツの屁をヒッたげな」とけなしてきたことも、ここに附言しておく必要があろう。なんと罰当たりなことに、「八つの屁」が矢部の名の起こりというわけである。
 どうやら、矢部の地名の由来は、「Yahveh(ヤーベェ)=矢部」であるらしい。

 記載にあるように、そもそも、イスラエルの民にとって神の名ヤーヴェは「みだりに口にしてはならない」ものである。彼等はそれを遵守して神の名を唱えなかった為に、後世、神の名の読み方が分からなくなったほどである。

 そんな彼らが、
自分達の住む地に、神の名のヤーベェを付けるワケがないだろうに。(ちなみに、かつて、熊本県には矢部町があったが、2005年に幣立神宮のある蘇陽町と合併して山都町となった)


 ちなみに、ここで登場する「鬼八法師」とは、阿蘇の地に伝わる神話・伝説に登場する人物である。(※参考:HP「阿蘇の風」→「阿蘇のこと」→「阿蘇の神話」)

 おそらく、矢部とヤーベェの音が似ているところから連想し、地元に伝わる鬼伝説を勝手にイスラエルの民と結び付けた創作が上記の話であろう。


 また、イスラエルの民が幣立神宮に収めた神器は、「モーゼの神面」と「水の玉」らしい。

 まず、「モーゼの神面」であるが、本書の第二集である
『青年地球誕生 第二集』(春木伸哉/明窓出版/2012)の巻頭によると、(その3)でツッコんだ五色神面の一つがそうらしい。

   

 この内の左から2番目が「モーゼの神面」だそうだ。

 これら五色神面については、
<P.44>
 神代の昔、黒・白・黄の隔てなく、共に生きた原点に返り、人類共通の願いを形として表し、その精神的、霊的な伝統を次の世界に伝えるために、各々の大陸から種族の願いをもって奉斎されたものです
と言ってるくせに、他方で、その内の一つを「モーゼの神面」だとし、上述のように、その由来を「イスラエルの民の生存と真の神の加護を願って、根源の神の宮・幣立神宮にモーゼの魂(モーゼの神面)を奉じ「水の玉」を納めた」などとする。

 あまり良く考えずに、新たな設定を追加している様が伺えるようである(笑)

 てか、ただの舞楽面だろーに。


 次に、「水の玉」であるが、これについても、よく分からない設定があるので見てみよう。
<P.309-310>
 それに今一つ重大なことは「水の玉」の霊威というものである。それは、イスラエル建国の祖といわれるモーゼの生涯(旧約聖書のモーゼの五書に詳説)を見れば分かることであるが、彼はエジプト王女に拾われてその宮廷に育つという大恩を受けたにも拘わらず奴隷の解放に献身し、百万人を導いて地中海を渡ったという偉業をやってのけた神人であった。
 この時に
火と雲の柱という二つの神威が記されているが、雲の柱”となったのが、アメリカはソルトレイク市のモルモン教寺院に鎮まっている、ユダヤ民族の信仰の本体であることはいうまでもない。ところが、今一つの火の柱”は、実は神かくしに会って地上から失われていることになっているのである。しかもこれは、二つの玉の姉の方に当たるからことは重大である。

 〜(中略)〜

 ところがなんと、その「水の玉」は、今日、日の宮に厳然と鎮まっているのである。
 モーゼがイスラエルの民を引き連れてエジプトを脱出した際、「火と雲の柱」が目印となって人々を導いたことが旧約聖書に記載されているが、どうやら、以下の通りであるらしい。
○火の柱 ・・・ 「水の玉」が霊威を表したもので、現在、日の宮(幣立神宮)にある
○雲の柱 ・・・ 「?の玉」が霊威を表したもので、現在、「アメリカはソルトレイク市のモルモン教寺院に鎮まっている」
 いろいろとツッコミどころの多い創作である。

 まず、「水の玉」などがそのような霊威を表したというのなら、何故、そのことが旧約聖書には記載されていないのか?
 該当のエピソードの中で霊威を表したものとして記載されているのは主に「アロンの杖」であり、当然、「水の玉」などと言ったものは登場しない。

 また、
の玉」が表した霊威がの柱」というのもワケの分からない設定である。どちらかと言えば、の柱」の方が相応しい。

 そして、モルモン教(笑)

 モルモン教は、正式には、末日聖徒イエス・キリスト教会。
 1830年にアメリカ合衆国で、ジョーセフ・スミス・ジュニアによって創立された新興宗教であり、ソルト・レイクに本部がある。

 ジョーセフ・スミス・ジュニアは、天使の導きによって、アメリカ大陸の先住民の起源と記録とを金版に刻みこんだ書物を掘り出したと主張し、その金版の内容を翻訳したものが、当該宗教の経典『モルモン経』である。

 その『モルモン経』では、紀元前600年頃、イスラエルに住んでいたリーハイという人物が、神からエルサレムの滅亡を知らされ、家族と共にアメリカ大陸に移住したとされる。

 その後、リーハイの子孫は、アメリカの白人であるニーファイ人と、インディアンの祖先に当たるレイマン人に分かれ、その二つの部族は争うようになるが、復活したイエス・キリストが来て教えを述べ伝えると、人々は平和に暮らすようになった。

 しかし、人々は徐々に争うようになり、ついには、レイマン人はニーファイ人を滅ぼしてしまうことになる。

 その直前に、ニーファイ人の予言者モルモンは、民族の歴史を金版に刻んで、その子モロナイに託し、モロナイは紀元421年にクモラの丘にそれを埋めて隠した。

 そして、その埋められた金版を発見したのが、ジョーセフ・スミス・ジュニアなのである。(ちなみに、この金版自体は、後に天使に返して現在は存在しない)


 このような、トンデモ歴史が書かれた『モルモン経』であるが、次のような問題点が指摘されている。
○当時、アメリカ大陸に存在していなかった牛や馬が登場する。

○イスラエル人がインディアンの祖先だとしているが、人類学的に完全に否定される。

○『モルモン経』のもととなった金版には「変体エジプト語」が用いられていたとされ、その原文の一部と称するものも公表されているが、考古学的に全く裏付けがとれない。

○『モルモン経』の英文の文体が「ジェイムズ王欽定訳」の英訳聖書とそっくりであり、全くの丸写しに近いものも少なくない。

 イスラエルの地でイエスがアラム語で語ったものを、ギリシャ語で文章にまとめたものが元々の新約聖書。そして、それを英訳したものが「ジェイムズ王欽定訳」の英訳聖書である。

 一方、『モルモン経』の方は、復活のイエス・キリストがアメリカ大陸で語った内容を「変体エジプト語」で金版に書き留め、それをジョーセフ・スミス・ジュニアが英訳したものとされる。

 当然、似た文章があってもおかしくないが、「全くの丸写しに近いもの」が散見されるなどありえないのである。
 ちなみに、欽定訳は当時のアメリカでは事実上唯一の英訳聖書であった。 
 以上、どこの国にでも、自分が創作したものを、「昔からあった」とか、「伝承されてきた」などと称して、新たな宗教を創始する人がいるのである。
※上記、モルモン教の話は、以下の書籍を参考にした。
『トンデモ超常レポート 傑作選』 (志水一夫/楽工社) P.36-48

 そして、「雲の柱”となったのが、アメリカはソルトレイク市のモルモン教寺院に鎮まっている」などと言う記述から推測するに、どうやら、幣立神宮の宮司様は、このようなモルモン教の話を真に受けているようである。


 ただ、いったい、モルモン教にある何が雲の柱”に当たるのか良く分からないが、偽モノ同士、魅かれるものがあったのであろうか。

 ちなみに、モルモン教寺院にあるものよりも、幣立神宮にある「水の玉」「姉の方に当たる」という設定にしたのは、自分の方が上だとアピールしたいが為であろう。


 さらに、この「水の玉」は先に引用した箇所にある通り、

   「この水の玉が今日も温存されている国津神、神漏美命であることは言うまでもない」

らしい。つまり、「水の玉=神漏美命」である。

 そして、この玉は「地中海沿岸から発掘され」「エジプトからカナーンの地、そしてはるばる日の宮の『日の玉』の花婿の下へとお嫁入り」したらしい。(P.311)

 一方、(その1)でツッコんだ当社の主祭神の説明を見てみると、
<P.38-39>
幣立神宮の主祭神

 幣立神宮は高天原神話発祥の神宮です。通称、高天原・日の宮と呼び親しみ、筑紫の屋根”の伝承があります。神殿に落ちる雨は東と西の海に分水して地球を包む、すなわち地球の分水嶺とも言われています。
 この
幣立神宮の主祭神は次の通りです。
 神代文字で表された
古名()()()()()()()()神漏岐命・神漏美命の二柱の神の大御名宇宙から御降臨の神・宇宙意志)であり
 
大宇宙大和神(神代七世の初代)
 
天御中主大神(天神七代の初代)
 
天照大神   (地神五代の初代)
の三柱を加えた五柱を主祭神として、
人類文化創造の原点となる尊い神々です。 
とあり、神漏美命は、神漏岐命と二柱で一つの「宇宙からの御降臨の神・宇宙意思」としか読めない。

 地中海で発掘されて、イスラエルの民が幣立神宮に納めた「水の玉」が神漏美命なら、当然、神漏美命は「宇宙からの御降臨の神・宇宙意思」ではない。


 こちらの方は、単なる言葉足らずなだけかとも思ったが、別の箇所では以下の通りあり、
<P.20>
 伝承では、太古地球上で人類が生物の王座に立ったとき、人類が大宇宙の摂理に合った生き方をしないと宇宙自体にヒビをもたらしてしまう”これを天の神様がご心配になり日の玉に移って御降臨になりました。およそ1万5千年程前、この神様が御降臨された地に日の木”が芽生え、その木に神が神宿り”されました。この、天神木に宿られた神様を、太古の神々(人々)は
 ■()()()()()()()()

と名付けて、地球上の神々の最高神として崇敬しました。
後の人(天皇の大祖先)はその神を神漏岐(カムロギノ)神漏美(カムロミノ)の命と尊称して高天原にのみ鎮まります神として伝えてきました。
 やはり、神漏美命は、神漏岐命とペアで降臨したことになっている。

 さらに、本書の第二集では次の通りあり、
『青年地球誕生 第二集』 (春木伸哉/明窓出版/2012) P.31 
 「カムロギ、カムロミの命が幣立神宮に御降臨になって大宇宙大和神の神様の御霊をいただき、この幣立神宮にお仕えになってカミロギの命をお守りになった」 
 こちらも、やはり、神漏美命は、神漏岐命とペアで降臨し、その後、「大宇宙大和神の神様の御霊をいただ」いたことになっている。

 神漏岐命を宿した「日の玉」が地球に飛来したのは1万5千年前のことで、一方、先述の神漏美命を宿した「水の玉」が幣立神宮に納められたのは、北イスラエル王国がアッシリアに滅ぼされたのが紀元前722年のことだから、それ以降の話。

 また、当神社の祭神の一人、天御中主大神は6千年前の人物という設定だから(P.233)、それよりも前の大宇宙大和神は当然、6千年以上前の人物(?)と言うことになる。

 結果、紀元前8世紀より後に幣立神宮に来た神漏美命が、神漏岐命と共に、「大宇宙大和神の神様の御霊をいただ」くことなど不可能なことが分かる。


 こちらも、後から、
「『水の玉』はイスラエルの民が幣立神宮に奉納したもので、それが神漏美命である!」などという設定をよく考えずに追加し、矛盾が生じてしまったのだろう。




 ※(その5)に続く


2013.01.22 新規

    精神世界
   (※「AIRランキンク」゙さんの精神世界ランキング。クリックすると、当HPに一票入れたことになります)


旧約聖書やイスラエル人のことを中途半端にしか知らないこそ、できた創作だナ。