もっともらしいだけの根拠(その19)
※当記事は、(その15)(その16)(その17)(その18)からの続き


 これまで、素人発想の言葉遊びによる主張を見て来た。

 当記事では参考までに、
言語学おいて、言葉の起源や言語間の近親性を調べたりする際、どのようなルールでもって調査するのかを簡単に解説しておきたい。


19.言葉遊びによる根拠U(5)

<参考>言語比較の三点セット

 まず最初に断っておきたいが、当記事の内容は、『朝鮮語で「万葉集」は解読できない』 (安本美典/JICC出版局/1990)(P.12-28)に記載されているものを簡単にまとめただけのものである。

 よって、詳細は該当書籍を参照願いたいが、本書自体、1990年刊行と古いものなので、その点にも留意して欲しい。




 本書では、日本語と他の言語を比較して言葉の起源を調べる際、「偶然の一致」や「こじつけ」を排除する為、次の3点に留意することが記載されている。
(1).「意味と音」とが同時に一致している語がどの程度あるか。
(2).「音韻対応の法則」が見出されるか。
(3).「計量言語学」の方法によって、「偶然の一致」をこえる一致は見い出されるか。
 順に解説する。

(1).「意味と音」とが同時に一致している語がどの程度あるか。

 これは読んだままの意味であるが、その理由は、「音だけ一致」でOKであれば、(その16)で解説した通り、例えば、日本語の歌を他の言語で解釈し直す場合、
 その作業では、まず、元の歌詞のそれぞれの単語につき、音が一致、もしくは、音が似ている他言語の単語を探し、次に、その中から全体として、もっともらしい意味となる組み合せを選ぶこととなる。

 しかし、実際は、対応させることのできる単語は膨大な数となり、その膨大な数の中から選んで組み合せ、もっともらしい意味になるようすれば良いだけの話
で、根気さえあれば、どんな言語にでも解釈し直すことが可能になってしまうからである。

 よって、(その17)と(その18)で見て来たような、
「日本語の歌などを外国語の同じ音の単語で読み換えて、その単語の意味で解釈する」という作業は、この(1)の条件を満たしておらず、言語学的にはナンセンスな作業でしかないのである。

 そして、この条件だけだと、(その15)で見たような、
「日本語とヘブライ語の類似語がたくさん見つかる」などと言った主張は、「『意味と音』とが同時に一致している」ので、一応はクリアしていることになる。

 ただし、(その15)でも説明した通り、そのような類似語は、偶然でそれなりの数が見つかってしまうものである。よって、そのような
「偶然の一致」を排除する為に、言語学では次のような手続きを取ることになる。
@.「数詞や身体に関する語」などからなる「基礎語彙」などを設定して、その範囲で比較する。
A.一つの単語だけを取り出すのではなく、「いくつかの単語」が「偶然とは言えない」形で一致するかどうかを調べる。
 簡単に言えば、どの言語も何万という単語を持っているので、闇雲に突き合わせれば、当然、偶然で一致するものが出て来る。よって、範囲を限定し、その中で、「偶然とは言えない」以上に一致しているかを確認するのである。

 例えば、日本語(東京方言)と首里方言の数詞で比較すると下の表のようになる。

 なお、首里方言とは、かつての琉球王国の都であった首里(現・那覇市内)の方言のこと。現在は、高齢者や研究者、沖縄演劇や古典音楽をしているような文化人を除き理解できる人はあまりいない。(※参考:コトバンク「首里方言」、Yahoo知恵袋「沖縄の方言には首里方言と那覇方言があるそうですが・・・」)
日本語(東京方言) 首里方言
発音
発音
hitotsu tiitsi
hutatsu taatsi
mittsu miitsi
'yottsu 'yuutsi
'itsutsu 'itsitsi
muttsu muutsi
nanatsu nanatsi
'yattsu 'yaatsi
kokonotsu kukunutsi
10 too tuu
 このように数詞という範囲に限定して比較してみると、「偶然とは言えない」以上に一致していることが分かる。(ちなみに、日本語と首里方言は、およそ1700年前に分かれた姉妹語であるとされる。)


 以上のように、闇雲に突き合わせるのではなく、数詞や身体語等に範囲を限定して比較することが重要なのである。



(2).「音韻対応の法則」が見出されるか。

 「音韻対応の法則」とは、同系の二つの言語などにおいて、音韻が規則的、法則的に対応することである。

 例えば、上記で説明に使用した日本語(東京方言)と首里方言の場合、「o」→「u」、「e」→「i」という音韻対応が見られる。具体例を上げると次の通りである。
日本語(東京方言) 首里方言
発音
発音
kumo kumu
hosi husi
ame ami
hune huni
(※上記は、Wikipedia「琉球方言」も参考にした)
 ここに上げたのは一部のみであるが、「偶然とは言えない」以上にこのような規則正しい対応が見出される場合、双方の言語が近しいものだと判断できることになる。

 ちなみに、この「音韻対応の法則」を見出す方法は、比較する二言語間の関係や影響が、およそ2千年を超えていない場合に極めて有効である。


(3).「計量言語学」の方法によって、「偶然の一致」をこえる一致は見い出されるか。

 「計量言語学」とは、統計学や確率論を用い、二つの言語の間の近さの度合を数字で測ろうとするものである。((注)この定義については、明確に記載しているものが見当たらなかったので、管理人が便宜的に作成したものである。留意願いたい)

 この、「計量言語学」の方法を使用して、二つの言語を調査すれば、その近さの度合が数字で分かることになり、例えば、「日本語と朝鮮語」と「日本語と首里方言」の、どちらが、どの程度近いかが分かることになる。




 以上、言語学における言語間の近親性を調査する方法を簡単に説明した。

 これまで見て来た、素人による
「日本語の起源は○○だった!」なとという主張との明確な違いがお分かりいただけたのではないかと思う。


 さて、これまで見て来た事例は、言葉の一致や読み換えであったが、日ユ同祖論では、日本語とヘブライ語の文字の一致が主張されることがある。

 最後に、(その20)では、その主張について見て行きたい。



2013.9.17新規

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