悟りと魔境(その8)
(その1)(その2)(その3)(その4)(その5)(その6)(その7)からの続き


3.自称霊能者たちの神秘体験

(3).オーム真理教のケース

B.マイトレーヤ大師こと上祐史浩氏

 上祐史浩氏が独房修行を行ったのは、1987年7月12日〜9月19日までである。

 それでは、上祐史浩氏が解脱体験を見てみよう。
『マハーヤーナ・スートラ 大乗ヨーガ経典』 (麻原彰晃/オウム/1998.2) <P.251-256>
◎8月23日(日)
 ツァンダリーのプラーナーヤーマの後、体が固定されて足が持ち上がり、体がねじれるような感じがした。体がふわっと浮き上がるような感じだ。

●神秘体験の連続

 クンダリニー・ヨーガのプロセスは、結構自分でもはっきり覚えています。
 最初、行法をやりはじめてから、
クンダリニーの光がすごく強く昇るようになって、クンバカしているときに、その青白い光がぱーっと見えはじめて、五大エレメントの虹みたいな色が見えてきました
 そのうちに、先生の言われる「意思の光球」とか「イメージの光球」とかが、睡眠中の半覚醒状態で見えました。すごく綺麗だなと思って、感動しました。
 先生がエジプトに行かれていた一ヵ月間の最後の一週間くらい、つまり行法が始まって約一ヵ月ちょっとしてから、
神秘的な、本当にいろいろな体験が相次ぐようになりました
 まず最初に、プラーナヤーマや、新たに加わった五体投地をやった後、十分くらいシャヴァ・アーサナをとるんですが、そのときに
自分のアストラル体がふわっと浮くような感じがしました。そして、天井近くまで上がっていったり、下がっていったりしました
 また、あるときは金縛りにあって、体が固定され、その次の段階で、またマニプーラ・チャクラのあたりがびーっとしびれてきて、
体から自分の意識がふっと抜け出していろいろなアストラル世界に行くんです。あるときは、部屋だったり、他のときは自然の中の景色だったり
 
 〜(中略)〜

●縦横無尽の超能力
◎8月30日(日)

 〜(中略)〜

 それからしばらくして、
幽体離脱が起こらなくなった時点で、すごく夢見がリアルになりました。夢見といっても、睡眠時間の夢見だけじゃなくて、シャヴァ・アーサナをちょっととっているだけでも、すぐアルトラル世界の方に入ってしまう。それで十分も十五分も遊んでいるんです。それがすごくリアルで、いろいろ楽しんでいるわけですね。
 そこで次第に、自分の前世の記憶みたいなヴィジョンが出てきました。例えば、知らない子供達や友達と遊んでいるんですよ。で、そのとき必ず何らかの超能力を見せている。ふわっと空中に浮くとか。ああ、おれは本当に空中浮揚ができるようになった。これは夢じゃないんだ、こうやって体がさわれるんだからとずーっと思っているんですよ。それで、しばらくして覚めると時間が一時間くらいたっていて、うわっと思ってまた修行をやりました。


(注)文字に色を付けたのは管理人(以下同様)
 青白い光が見えたり、自分の意識が体から抜け出していろいろな世界に行ったり。
 そして、その幽体離脱が起こらなくなると、夢見がすごくリアルになったらしい。

 幽体離脱は、(その2)で見た魔境での体験の内、以下のものと類似のものである。
○数十里飛んで、伊勢の海を越えて紀伊に至った。
 また、夢見がリアルになったということで魔境入りは果し、オウム真理教基準では6「クンダリニー・ヨーガ」は成就していると思われるが、この時点ではまだ麻原彰晃氏の解脱認定は降りない。

 なお、自身の体験を「夢見」と表現しているところが、他の人と比べ上祐史浩氏は冷静で客観的である。


 で、結局、解脱認定を受けたのは、上記の20日後である。
『マハーヤーナ・スートラ 大乗ヨーガ経典』 (麻原彰晃/オウム/1998.2) <P.261-262>
●解脱――輝いたオレンジの光
◎9月20日(日)
 
夜、寝ていると先生から突然電話がかかってきた。
「終わったんじゃないか」

といきなり言われる。
「呼吸が停止していただろう。お前は座法がヘタだから、寝ているうちに三昧に入るんだ。」
そして、
「もう、瞑想とプラーナーヤーマだけをやれ。そして、三昧に入れ。」
と言われた。

 
クンダリニー・ヨーガの成就というのは、先生が言われていたんですけれども、最後にオレンジ色の光が見えてくるんです。
 普段と同じように行法を済ませて、ご飯を食べたその後、知らぬ間に三昧に入っちゃうんですね。呼吸が止まって、心臓の鼓動がものすごく速くなっていく。そのとき、意識ははっきりしていなかったんですけど、一時間くらい入っていました。
 出てくるとちょうど
先生から電話があって、
「クンダリニー・ヨーガが終わったんじゃないか。」

と言われたんです。自分は全然意識がなくて、その後、
瞑想してみるとオレンジ色の光がぴかっと見えましたね。で、それからは頻繁に見るようになりました。
 成就も、人によって激烈な体験をする人とそうでない人といるみたいです。先生の話では僕の場合、クンダリニー・ヨーガは過去世で終了していたので、あんまり今生では激烈な体験というのがないみたいですね。
 最後はオレンジ色の光が見えただけで、ショボい解脱。

 また、「クンダリニー・ヨーガの成就というのは、先生が言われていたんですけれども、最後にオレンジ色の光が見えてくるんです」とある。

 しかし、石井久子氏の成就は黄金色の光と一体化するものだったし、大内早苗氏の場合は赤、黄色、白銀、金色等の波・うねりを見たというもので、双方とも最後にオレンジ色の光は出て来なかった。

 麻原彰晃氏、修行をしていない寝ている最中に「終わったんじゃないか」と電話をかけてきたりと、どうも、その都度、適当なことを言っているように思える。

 なお、上祐史浩氏が成就後に特別な境地や超能力を得たという話は記載されていない。


 それでは、最後に上祐史浩氏のその後。
Wikipedia「上祐史浩」、「亀戸異臭事件」、「アレフ(宗教団体)」より
1993年6月28日と7月2日に東京都江東区亀戸で発生した炭疽菌による生物兵器テロ未遂事件(亀戸異臭事件)の取りまとめ役。ただし、オウム真理教の手法では炭疽菌が生成できない不能犯であると認定され刑事訴追されなかった

1995年10月7日、
国土利用計画法違反事件で逮捕、10月28日に、偽証と有印私文書偽造・同行使の罪で起訴される。裁判では懲役3年の実刑判決を受け、広島刑務所に収監された。

2002年1月30日、オウム真理教が改称したアレフの代表に就任。

2007年5月7日、新団体「ひかりの輪」を設立し、アーレフ(※2003年2月にアレフが改称したもの)から完全に脱会した。
 なお、上祐史浩氏が代表を務める「ひかりの輪」のホームページにおいて、麻原彰晃氏を「『空想虚言症』『誇大自己症候群』という人格障害者であったと総括」(※「2.オウム時代のの反省・総括の概要」)している。

 しかし、それを上述の解脱時点で気付けなかったのは、やはり、解脱など出来ていなかったからだと言える。

 また、Wikipedia「上祐史浩」には、「オウム真理教がサリンを製造していた事実も承知していたが、当時批判できなかったのは、麻原彰晃にポア(※殺害)されるのを恐れたからだと述べた」とあり、やはり、死の恐怖からも解放されてもいないのである。




 以上、オウム真理教における4人の解脱体験を見て来た。

 
神秘体験によって、真実が見えるようなったり、特別な思考力や判断力がついたりしないし、また、偏見や煩悩から解放されたりすることがないことがよく分かるであろう。

 ただ、オウム真理教の魅力は、この解脱体験・神秘体験であったのは想像に難くない。(その5)でも述べたが、石井久子氏の体験など、魅力的に感じる人も少なくないであろう。

 しかし、
所詮は魔境に入って自我が肥大し、勘違いしただけの話。

 
オウム真理教とは、魔境に入って「解脱した!」と勘違いした人間が、他の人をも魔境へといざなっただけの宗教だと言えるだろう

 そこには悟りも救いもない。ただ、あるのは、悟った、救われた、と思い込む幻想だけである。

 そして、その幻想の中で走り続けた結果が、悟りや救いとは程遠い数々の凶悪な犯罪事件なのである。


 さて、これまでの魔境の例は主に「光」が登場するものばかりであったが、続いて(その9)では、これまでとは異色の、「宇宙人」が登場する魔境を見てみよう。




2014.09.16新規

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