<ムー>
そもそものきっかけは、マヤ研究家のチャールズ・エティエンヌ・ブラッスール・ド・ブールブール(1814-1874)で、マヤ文字と絵で構成された『トロアノ絵文書』を誤訳したことから始まる。
ブールブールはこの絵文書に「アトランティス滅亡の話が書いてある」と勝手に信じ込んだ上で、絵文書にたびたび登場する1対のシンボルを「ムー」と訳し、これこそがアトランティスのことに違いないと決めつけた(※『トロアノ絵文書』は、実際には儀礼や暦について記されたもの)。
その後、誤訳の度にスケールを増して行ったムー伝説だが、それまでは「アトランティス=ムー」で大西洋上にあったことにされていた。それを太平洋に持って来たのがイギリスの自称「陸軍大佐」、ジェームズ・チャーチワード(1851-1936)である。
チャーチワードは、1868年から1890年にかけてインドで軍務に就いていた際、余暇で訪れたヒンズー教の寺院で『ナーカル碑文』を見せられ、そこには太古、太平洋の中央部にムーと言われる巨大な大陸があり、文明が栄えていたことが記されていたと主張した。
しかし、チャーチワードがインドで軍務に就いたと主張する1868年は彼は17才で、実際にはイギリスにいた。本当の彼の経歴は次の通りである。
1851年、イギリスに生まれる。
1872年頃、スリランカで紅茶農園の経営を開始する。
1880年代に渡米し、鉄道関係のセールスマンや技術者をした後、鉄道用品会社を立ち上げる。
1890年から鉄道用品関連の特許を取り始める。
1910年までにニューヨークにチャーチワード・インターナショナル・スティール社を設立。
第一次世界大戦前後、USスチール等と特許をめぐって訴訟となり、鉄鋼業界から抹殺される。
1917年には、失意のうちにコネティカット州レイクヴィルに移住する。
1926年、『失われた大陸ムー ―― 人類の母国』を刊行。
|
<アトランティス>
アトランティス大陸の元ネタはプラトン(前427‐前347)の対話篇『ティマイオス』と『クリティアス』であり、そこでは、アテナイの政治家ソロン(前639‐前559)がエジプトの神官から聞いた話として、アトランティス伝説がクリティアス(前500頃-前420)の口から語られる。
しかし、これらの書籍の中の舞台設定は紀元前421年のことだとされていて、それはプラトンが6才時で、そもそも本当にその場にいたのか、仮にいたとしても内容を覚えられたのか、はなはだ疑問が残るものである。
また、神官からアトランティス伝説を聞いたというソロン、そして、曾祖父からその話を聞いたというクリティアスら自身がアトランティス伝説について何も書き遺していないのに加え、エジプトに長期滞在して膨大な情報を収集したはずの歴史家ヘロドトス(前485-前420)でさえも全く記載していない。
プラトンの2冊以外には、エジプトにもギリシャにもアトランティス伝説は残っていないのである。
結局、プラトンが記載したアトランティス伝説は、理想の国家がどうあるべきかを論じる為に、その対極に位置する、堕落して神に滅ぼされた国を構想し、創り上げたと考えるのが妥当なものなのである。
<レムリア>
レムリア大陸は元々、学術的な根拠から唱えられた大陸である。
アフリカのマダガスカル島にはキツネザルが生息しているが、この仲間は世界中で存在していない。しかし、同種の化石がインドから発見され、また、近縁の種はインド洋を挟んでアフリカ中部と東南アジアのマレー半島、インドネシアにのみ生息している。
このことから、1874年、インド洋にかつて大陸が存在していたという説を唱えたのが、イギリスの動物学者フィリップ・ラトリー・スクレーターである。そして、その大陸は、キツネザル(レムール)にちなんでレムリア大陸と名付けられた。
この説では、レムリア大陸で誕生したキツネザルが陸橋を伝ってアフリカとアジアに移住したとし、また、約5千年前にレムリア大陸は沈没したが、西端のマダガスカルだけが海面に残ったとした。
しかし、この説は、1968年にプレートテクトニクス理論が完成し、大陸移動説の裏付けが確実なものとなったために否定されている。上記のようなキツネザルの近縁種の分布は、インド洋の架空大陸を想定しなくても、大陸の分離・移動によって説明できるからである。
<参考> 地質調査の結果
そもそも論として、太平洋、大西洋、そしてインド洋に、かつて大陸など無かったことは地質調査の結果、明らかとなっている。
海底と大陸では、地殻を構成する組成が異なっており、海洋地殻が玄武岩を中心に出来ているのに対し、大陸地殻は安山岩が中心になっている。
地質調査をすれば、海底であろうと、そこがもともと地上であったのか、海底であったのかが分かるのである。
|
※詳細については、以下の書籍等を確認して欲しい。
<ムー>
○『謎解き 古代文明』 (ASIOS/彩図社/2011) P.210-221
<アトランティス>
○Wikipedia「アトランティス」
○『トンデモ超常現象99の真相』 (と学会/洋泉社/2011) P.146-151
○『謎解き 古代文明』 (ASIOS/彩図社/2011) P.104-115
<レムリア>
○Wikipedia「レムリア」
○『トンデモ超常現象99の真相』 (と学会/洋泉社/2011) P.156-159
|